芥川賞候補作
あらすじ
大学の軽音サークルに入った僕は、楽器未経験者で経験者たちに相手にされなかった結果、同じく楽器未経験の喜三郎とアルルの3人でバンドを組むことになる。喜三郎は父親が以前やっていたバンドであるダンチュラ・デュオのコピーと称したオリジナルの曲を製作して僕もその嘘に乗り、昔存在した架空のバンド、ダンチュラ・デュオの再現をするバンドという設定のバンド活動を始める。そんなある日、オリジナルのダンチュラ・デュオを知ってるというお笑いコンビが出てきてピンチに遭うが、それをアルルに助けられて…という話
鴻池留衣さん自体あまり作品数が多い作家さんじゃないから印象が薄かったんですけど
こういう作品があるから芥川賞候補作読むのやめられねえんだよなって思わせてくれる作品だった
全体の構成がWikipediaの構成になってるし
設定とか話の内容がこれまで読んだことない感じだったし
ずっとワクワク感あったな
では具体的に楽しかったところを2つほど紹介
1つ目は
妄想が現実になっていく様子
これが何といってもこの作品の醍醐味だと思うんですけど
喜三郎の設定だと思っていたことが実際にあったことっていうことが分かり始めてから
妄想と現実が混濁しながら話が進んでいく感覚になってとても心地良い
非現実であったものが現実で起こっていくことがどうして心地良いのかはわからないけど
とにかく良かったな
2つ目は
敵組織と味方組織関連の抽象度
組織の詳細が書かれていないところと容赦ない襲撃の様子が
組織の全体像とか自分の立ち位置とかを把握する前に強大な組織の力によって命が危うくなりそうになっている様子を絶妙に表していてとても良い
具体的に言うと
「知り合い」とかの隠語が使われていたり
バンドとしての表の姿とスパイとしての裏の姿の両方が描かれていたり
死の描写がなくて消されたことだけが仄めかされていたり
そういったフィクションのようなスパイの世界観を描くバランスがすごく良いですよね
デビュー作もぜひ読んだみたいと思ったのだけど
なかなか手に入りそうにないなあ