芥川賞候補作
あらすじ
映写機の葬式をやると言われて20年ぶりに大学時代にアルバイトしていた映画館を訪れた主人公。久しぶりに訪れた映写室で主人公はある写真を見つける。それは20年前にミスミという女性が貼った、our ageと書かれたとある鉄塔の写真だった。主人公は当時のミスミとの鉄塔探しの日々を思い返しながら20年越しに鉄塔を探し始める、という話
これまで読んだ芥川賞候補作の中で1番好き
芥川賞受賞しなかったことの方が驚きなんですけどこの時の受賞作が『首里の馬』と『破局』でどっちもとても面白かったからこの時のレベルが高かったんやなって思います
良かった点を3つほど
まず1つ目は作品全体の雰囲気
どこか虚ろな雰囲気で
出てくる登場人物たちが色褪せているように感じられるのが当時を懐かしく思っている主人公のノスタルジーな感じを表していて美しい
ミスミとの過去もミスミがもういないことも雰囲気に含まれている感じがしますね
2つ目は鉄塔とour ageの意味
正直あんまり真相に期待していなかったというか
この作品の感じでわかりやすくスッキリしたくもない感じがあったんですけど
鉄塔の写真を撮った意味もour ageの意味も作品の雰囲気を全く壊すことがなくて
当時のミスミの母親の心境だけが力強く伝わってくるのが凄い
スッキリしたけどわざとらしくない真相でとても心地よかったですね
3つ目はミスミの人間性
ミスミが自分だけのルールを色々決めていて
カレーを速く食べたり
異性に誘われたら断らなかったり
とかのルールがミスミ独自の人間性のように思えていたのに真相を知ると見え方が変わるのが面白いし
ちゃんとミスミという人間の歴史も感じられて良い
芥川賞候補作でここまで楽しめたのは初めてだし
もっと評価されるべき作者さんだなと思いますね