活字中毒者の禁断症状

引きこもりが読書感想文を提出するブログ

【読書感想文】パッキパキ北京 / 綿矢りさ

あらすじ

コロナ禍で医師である夫が北京へ赴任し、適応障害になってしまったことを受け、菖蒲も北京に移住することとなる。菖蒲は大学院カップルや夫と一緒にコロナ禍ぎ収まりつつある北京を謳歌していくが…という話  

 

綿矢りささんが書く女性主人公小説の流暢さみたいなのってすごいなと改めて感じたな

綿矢りささんの日常のなかに執筆が組み込まれていて自然と書いている部分が多いんじゃないかと思わせられる空気

 

では具体的に良かったところを2つほど紹介

1つ目は

コロナ禍とコロナ禍明けの北京の情勢

本書では、北京のショッピングモール・通販サイト・爆竹・新年・観光地…などなどの北京の状況が書かれていて

北京の当時の等身大が日常生活ベースで伝わってくるんですけど情報の羅列にならずにちゃんと物語の進行に気にならない程度に散りばめられているから

情報を知る意味での面白さと物語としての面白さが両立してますね

このあたりの感覚がさすがだなって思いますね

 

2つ目は

魯迅の『阿Q正伝』の引用

敗北を勝利に変える主人公の生き方を知ることで

菖蒲自身の考え方の転換につながっているあたりがとても良い

これの何が良いかというと北京という舞台と菖蒲の性格と魯迅という人物と考え方がこれ以上ないくらいマッチしてるところで

どの順番で考えて書いたのかとても気になる

魯迅を元にして北京と菖蒲の性格を考えたのがしっくりくるんだけど

そうだとしたら北京の情勢をクリティカルに切り取れ過ぎてる気もするし

夫が教養のある人物で菖蒲が初めて魯迅のことを知るという展開も合ってるんですよね

この辺りすごいな

 

ベテランの作家さんの作品を読むと新人の方の作品とはまた違う良さがあるよな

【読書感想文】アルタッドに捧ぐ / 金子薫

文藝賞受賞作

 

あらすじ

主人公の本間は小説を書いていた。ある日登場人物のモイパラシアが急に亡くなり、それをきっかけに原稿用紙からアロポポルというサボテンとトカゲのアルタッドがこちらの世界にやってきた。

本間はアロポポルとアルタッドを育てながら自身の生活と執筆活動に向き合っていき…という話

 

同時受賞した李龍徳さんの『死にたくなったら電話して』が注目を浴びがちなんですけど

この作品とても良かった

金子薫さんの作品、タイトルが気になるものばかりだしSFっぽい空気もあるので色々読みたくなってきたな

 

では具体的に良かったところを2つほど紹介

1つ目は

小説と現実の混同

良かったところっていうか全体なんですけど

小説で書いていたものが原稿から現実世界に出てきて

筆者の自分自身と交流していくっていうの良すぎ

それに仰々しく書かれているわけじゃなくて

当たり前のことのように自然に書かれてるから

ファンタジーが静かな印象で全体の静謐な空気感に寄与してる感じがあって

とても素敵な雰囲気だった

自分の書いた小説の登場人物が急に亡くなって

その人物を弔うところから始まる

っていうのも物語を作成するときに物語が自分の意思とは無関係に進んでいく感覚を表したいというのがわかりやすく描かれているポイントで

とても良い

筆者が描きたいものをしっかり感じさせてくれる形になっているから読んでてすっかり心地いい感覚だったな

 

2つ目は

孤独なアルタッドへの愛

筆者が作品のなかの生物や登場人物を愛してるということは

現実世界に実際に存在する事物を愛することと何も変わらないんだっていうことを言っているみたいでとても良かったな

そしてアルタッドっていう自分が作り出した存在が世界に馴染めなくて孤独を感じてるときに

という花を愛でるところとか

愛情を注ぎ続けるところとか

色んなことの比喩みたいで

好きだな

 

金子薫さんの作品タイトルが全部惹かれるのですよね

次は『双子は驢馬に跨って』を読みます

(感想の時系列逆になった)

 

 

【読書感想文】紙の動物園 / ケン・リュウ

様々な賞を獲ったSF短編集

 

ここでは特に心に残った2作品について

『紙の動物園』

ぼくは香港出身の母と母をカタログで選んで結婚した父との間に生まれた。母は紙で動物を折るのが得意で折った動物たちは自らの意思で動き始めることができ…という話 

 

『心智五行』

宇宙でたった1人彷徨ってしまったタイラはファーツォンが住む惑星に着陸する。ファーツォンは言葉も通じない衰弱したタイラを世話し、やがてアーティという翻訳機を通して会話するようになる。2人惹かれあい、お互いの文化の知識を使って助け合っていたが…という話

 

初めて海外の作家さんのSF作品集を読んだんですけど

ちょっと桁違いに面白かった

めちゃくちゃ衝撃を受けてしまった

これケン・リュウさんの作品が面白いんですかね

もし海外にこのレベルの作家さんがゴロゴロしてるなら日本のSF読む気なくなるかもしれない…ってレベルだ

翻訳の関係で日本語として違和感あるところが多々あるように感じてもなおこのすごさ…衝撃度で言ったらここ数年で1番の衝撃だった

 

では具体的に良かったところを2つほど紹介

まず1つ目は

母によって魂の込められる動物たち

折り紙によって動物たちに魂が込められるっていう発想だけでも面白さってあると思うんですけど

その魂が込められる理由みたいなものに母の温かさや愛情を感じられるのがすごく良い

しかもその母と父との出会いが歴史的な背景を踏まえたあまり明るいものではなくて

それで母には周りから馬鹿にされたり、教養がなかったりっていう個性を持ってしまっているんだけどそんなこととは関係ない人としての魅力として特別な能力があったという位置付けにこの紙に魂を込める能力がきてるのがとても好き

 

2つ目は

文化の違いを超えた愛

これは『心智五行』の方なんですけど

惑星を超えた2人の話で

惑星が違って言語が違って文化が違っても愛が生まれうるのが良いですね

自分が好きなのはタイラの文化からしたら

ファーツォンの文化は時代遅れに思えるようなものなんだけどタイラが知らないことに出会った時にファーツォンの文化を尊重してるように思えるのがとても良かった

そして最後の展開も良かったな

ここまでSFの要素が強いのに人間愛に焦点を当てるの好きだな

 

ちょっと海外SFめっちゃ読んでいきたいと思ってきた

【読書感想文】禍 / 小田雅久仁

ホラーファンタジー作品の短編小説集

 

ここでは特に好きだった『耳もぐり』と『農場』について

 

『耳もぐり』

香坂百合子が行方不明になった。交際相手の中原光太は隣の家の男に会いに行く。隣の男は、以前電車の中で男が眠っている女性の耳に指を近づけると男は女性のなかに入って消えたという事象を見てしまったことがあった。隣の男は、その男から耳もぐりというものを教えてもらって…という話

 

『農場』

輝生は金のない若者で路上で生活していた。彼が男から声をかけて連れて行かれた部屋には、鼻の浮いた水槽が置いてあった。輝生はその農場と呼ばれる施設でハナバエというものを育てる生活を始めて…という話

 

小田雅久仁さんは『残月記』がすごく気になってたのに読む機会逃してしまったから先にこっちを読んでみたんですけど衝撃的な面白さだった

久しぶりにエンタメ系の小説でこんなに面白さを感じられたかもしれない

ホラーファンタジーって自分はホラーもファンタジーも苦手寄りなのにこれだけ面白いってちょっと凄すぎる

 

では具体的に面白かったところを2つほど紹介

1つ目は人体をテーマにした数々の話と展開の幅

この短編集はテーマとして口、髪、耳、鼻…といった人体の一部がテーマとなった小説が収められている

しかもその制限あるなかでも人体と話のテーマの間の絶妙な距離感と物語の発想の独自性がそれぞれの話の中で輝いてる

題材が身近も身近だからホラーというテーマだとより怖さが増すし

さらに口がテーマの話は口の機能である食べるということに着目しているのに耳は形状的なイメージに着目していて鼻はおそらく花と掛け合わせた音から着想を得ているような気がしてその多角的な視点も素晴らしいよなって思いました

 

2つ目は、書きすぎない人間の内情

エンタメ系の話があまり好きではない自分が何でここまで面白く思えたのだろうと思ったんですけどその理由の1つに書きすぎてないからっていうのがある気がしてるんですね

というのも『耳もぐり』の、鈴木という男に対する男や『農場』に人生をかけた輝生の心情が正直あまり見えてこない

鈴木に対しては初めは恐怖に近いものを感じてたのはわかるけどどうしてそうしようと思ったのかうまくわからない展開が出てくるし

輝生に関しても不気味さを感じていたのに人生をかけるまでになるのにはギャップがあるし

ただそれらが明確な気持ちが見えてこないって話で意味不明ではないからそこに味わいが出るんだろうな

 

小説の面白さを自分はまだ理解していないっていうのがよくわかる読書体験だった

『残月記』がより気になるな

 

 

 

【読書感想文】双子は驢馬に跨がって / 金子薫

野間文芸新人賞受賞作

 

あらすじ

「君子危うきに近寄らず」は目を覚ますとある部屋に閉じ込められていた。その部屋に自分の息子らしい「君子」も閉じ込められることとなり、彼らは2人で壁に地図を描いていく。その地図では双子が彼ら2人を助かる様子が描かれている。その頃ある双子がナカタニという驢馬と一緒に旅に出ていて、彼らは建物に閉じ込められている人たちを解放するためにその建物を目指し始める。一方「君子危うきに近寄らず」と「君子」の描いた地図は2人を監禁する老人たちによって消され、絶望していた。そんな彼らのもとに双子から手紙が届き…という話

 

金子薫さんの作品は『アルタッドに捧ぐ』に続けて読んだのは2作目なんですけど

めちゃくちゃ面白かった

すべてが夢のなかみたいな世界だ

タイトルだけでもすごく好きなのに

主人公たちのネーミングセンスも物語の中身もとても好きだった

 

では具体的に良かったところを3つほど紹介

まず1つ目は

君子危うきに近寄らずの人間味のなさ

君子危うきに近寄らずは記憶がないのに自分のことを君子危うきに近寄らずという名前で受け入れていて記憶にないのに息子だと言われると息子だと信じているという人間味のなさで

主観性を著しく欠いている

ただその一方で君子のことは大事に思っている使命感みたいなものは感じている様子で

君子危うきに近寄らずという役が与えられて演技しているみたいに思える

金子薫さんがどういう意図でこういう人物にしてるかわからないけど会社で仕事をしてる人たちに重ねて考えてしまいましたね

仕事の役割は自分の自我とは違うところにあるもので一種の演技だと思うので

人生の大半を自分自身とは違うところにある役割に費やしてる現代人のことと一緒ですよね

皮肉っぽく感情を薄く描いてるの良いですね

大袈裟に書かれててもリアルさを追求している訳ではない小説なら良さになるんだな

 

2つ目は

象徴的な事物の数々

この物語全体は人生の象徴であるような気がする

閉じ込められている場所が現在進んでいる現実の世界で

現実の世界は自分が思ってるよりも制限されていて自由が保証されていない

その中で無味な時間を過ごすための工夫として労働や娯楽を見つける必要があって

でも時には理不尽な理由からそれらが奪われてしまうこともある

さらに人間同士の関係も常に他人という初期の状態から発展させるものであるという点も人生って感じがしてとても面白い

この思考実験の1つみたいな世界観がとても面白くてずっと考えてしまうしハマってしまった

 

3つ目は

自分の空想が現実になっていく

この話では初めは双子という存在は親子の中での空想だったのに

次第に現実のものとなって自分たちを助ける存在になっていく

それがフィクションや創作の比喩になっている気がした

初めは空想でもそれが小説や映画となってしまえばそれは現実の一部になりうるものだし

それらに助けられることがあるのは確かだし

これをフィクションの比喩として書いているのだとしたら素晴らしすぎますね

 

金子薫さんはもっと話題になるべきだと思う

 

【読書感想文】ケチる貴方 / 石田夏穂

野間文芸新人賞候補作

 

あらすじ

それほど細くもない体型なのに人並外れた冷え性を患っている主人公の女性。彼女はエンジニアリング系の会社で働いており、ある日新人2人の教育係となる。初めは教育係をめんどくさがっていた彼女だが、ふとしたことから彼女の身体に変化が起こり…という話

 

石田夏穂さんってエンジニア系の会社で働いていらっしゃるという噂があるから出てくる用語が専門的でリアリティはあるけどその分ちょっと読みづらい部分はある

 

では良かったところを2つほど紹介

1つ目は

社会での女性の見られ方について

石田夏穂さんの小説では男女が平等でない会社に属する女性が主人公であることが多めで

本作もそうですね

女性として見られない主人公が明るくなることで

女性的な役回りを与えられるようになる

という要素が入っている

この状況ってそれを受け入れると女性に女性らしさを求めることを肯定することに繋がって

受け入れないと女性として扱ってもらえない差別的な状況を肯定することに繋がってしまうっていう微妙な状況だと思う

 

2つ目は

冷え性を身体の熱をケチってるというところ

身体の制御機能に異常があると確かに自分の身体なのに都合悪いの変だよなって感覚はあったけど

それをケチと結びつけて語るのすごいし面白いですよね

身体が熱を発することをケチってると表現して

主人公のケチな性格と結びつけて

性格のケチさが緩和するにつれて冷え性の方も緩和していくっていう構図美しいですね

この間朝比奈秋さんの『植物少女』を読んだ時も思ったことなんですけど

理系溢れる題材で気持ちとか心とかが関連する非科学的な発想に重きをおいた作品がすごく好き

自分にとって希望ですね

 

【読書感想文】此の世の果ての殺人 / 荒木あかね

江戸川乱歩賞受賞作

 

あらすじ

地球に隕石が落ちて世界が終末を迎えることが発表された。そんななか小春は免許を取るために教習所に通っている。小春がいつものように教習所に行ったとき、教習車のトランクの中に滅多刺しにされた女性の死体を発見する。小春は教官のイサガワ先生とともに女性の殺人事件の謎を追求していく…という話

 

これぞ新人賞受賞作っていう良さが詰まってる作品だと思う

文章がめちゃくちゃ洗練されているわけではないけどだからこそ文章の上手さで誤魔化してなくて誠実に突飛かつ唯一無二の設定の作品を仕上げている印象でとても良かった

普段純文学以外の新人賞はほとんど読むことがなかったけど読んで良かったな

 

では具体的に良かったところを2つほど紹介

1つ目は、終末という非日常のなかの日常描写

非日常と日常の対比がこの本の最大の魅力だと思うんですね

終末という設定のなかで教習所・自宅・学校などの身近な舞台を描く時に日常のままであるところを書きつつ終末の異常性を書くから非日常感がわかりやすく伝わってくる

さらに個人的に1番好きだったのはこれだけ突飛な設定なのにファンタジーや論理の飛躍に逃げてないところでこの突飛さに説得力をもたせてるからこそさらに楽しめた気がしましたね

 

2つ目は、ミステリーを面白くする要素のオンパレード

この作品はあんまりミステリー読まない人間でもわかるような要素の工夫がすごく盛り込まれている作品だと思う

身近な人物に疑いを向けている展開だったり、違和感を抱かせる伏線だったり、ミスリードだったり、自動車というこの話の軸を生かした展開だったり

ミステリーのお手本のような構成だと思う

弟関連の話の展開の色々の広がり方としかいえないけど面白かったな

家の音のやつとかそんな展開あるんだって驚き

 

そして普通に残虐めな描写もあるし本格ミステリって感じでしたね

おもしろかった