織田作之助賞候補作
あらすじ
ボーカルギターの葵、ギターの智樹、ベースの啓介ドラムの伸也の4人で組んでいたバンド「Thursday Night Music Club」にメジャーレーベルから声がかかる。しかしレーベルのプロデューサー中田がデビューのために提案したのはベースの脱退だった…
葵は彼女の莉央に支えられながら、朱音、九龍、昴流といった新メンバーとともにバンドを大きくしていく一方で、ロックンローラーとしての自分と本当の自分との解離に苦しんでいき…という話
高橋弘希さんの作品はこれでデビュー作の『指の骨』以外は全部読んだことになるのかな
この作品は他の作品と比べても文章量が多くて物語性が強い作品なんですけど
とても楽しく読めたなあ
レビューで長すぎるみたいな意見あって
わからないこともないんだけど
人間性の深掘りだったり、情景や心情の詳細な描写だったりに割かれている文章量が多かったから
より自分の好みの作品になった感じあったなあ
では具体的に良かったところを2点ほど紹介
1つ目は、音楽の支配力
ライブに行ったり
バンドで楽器を演奏したりすると
音圧で全身が包まれる感覚に陥る
そうすると他の感覚が聴覚に吸われてしまうみたいに鈍くなって
鳴っている音楽以外のことを受容する能力が低くなってしまう気がする
そんな音楽の支配力に囚われ続ける話みたいに思えたな
人生そのものが音楽に包まれて何も分からなくなっていく感覚を物語全体で表現していて
とても良かったな
2つ目は、ロックンロールの副作用
音楽を職業としていると次第に
単調な繰り返しに飽きてしまうから
薬物でリズムを乱したり
自殺を試みて極限の休符を求めたり
そんな衝動に駆られることがある
だから音楽関係者の薬物乱用とかは起こりやすい
っていうことをこの物語が考えさせてくれたな
音楽だけに限らないのかもしれないけど惰性で続けることがどちらかといえば悪になる創作に携わっている人たちにとって日常生活ってちょっと物足りない感覚になりやすいものなのかな
ロックンロールへの憧れが強ければなおさらこれまでの歴史的にその感覚に陥りやすいのだろうし
難しいなあって思ったな
読んで良かったー
温め続けた『指の骨』も近々読まなきゃな