芥川賞候補作
あらすじ
出張マッサージ師である主人公が施術するのは介護施設に入っている五十山田さん。五十山田さんは戦争を経験しており、肩こりをほぐされ、身体の調子を整えられるなかで戦争の時の記憶を思い出し、苦しむ。西洋医学を駆使して五十山田さんの身体の不調に歯止めをかけようとするが、五十山田さんの身体の不調は止まることがなく…という話
松波太郎さんは何度か芥川賞にノミネートされている作家さんなんですけど絶版になってる本が多くて初めて読んだ
久しぶりにこれほど新鮮に思えた書き方でとても良くて面白かった
では具体的に良かったところを2つほど
まず1つ目は
とにかく独特な書き方
独特な書き方と言っても印象的
一方通行の会話文で相手がこちら側に問いかける間にこちらからの返答は書かれていないし
逆もまた然りとなっている
マッサージを施すという一方通行の行為に準えているような書き方がリアルに忠実で
誠実な書き方をしているような印象を受けてとても良かった
2つ目は
回想の想起と始まり
身体の痛みから同じ痛みを感じていた時のことを思い出す様子が書かれていて
話の始まりが軍隊での話で最初掴めないけどそれが患者の心理の話だとわかると
人生の連続性が描かれていることがわかって面白かった
人生の連続性を描いてるのが
身体全体の流れを良くしようとする西洋医学の身体全体を1つの連続した系だとみなす姿勢と重なってとても良かった
3つ目は
橋を渡るという表現
盧溝橋事件と身体の不調を準えて書いていて
橋を渡ることが後戻りできない状態になることを指している
盧溝橋事件の場合は人を殺害してしまったことで
身体の不調は首より上まで不調が伝播すること
一線を越えるって表現しそうなところをあえて橋を渡るっていうことで盧溝橋事件への悔恨の深さを表してるみたい
戦争が残す心の傷の深さを感じたな
松波太郎さんの初期の作品ほとんど絶版になってるっぽいから読むの難しいけど少しずつ手に入れられると良いな