芥川候補作と新潮新人文学賞受賞作
『図書準備室』
あらすじ
ヨシオカという小学校教師には戦争の時に、女性を強姦し、敵を殺害したという噂があった。
意図的にあいさつをせずにいた主人公はある日学校の図書準備室でヨシオカと2人きりになり、ことの真相を問いただす…という話
『冷たい水の羊』
主人公の真夫は中学でいじめを受けていた。そのことを先生に報告したまま何もしない水原を殺害するために包丁を買い、持ち歩いている。来る日も来る日も殺害のタイミングをうかがっているが…という話
あらすじ書いてて思ったけど話の本筋はだいぶシンプルですね
一応『図書準備室』は30歳を過ぎても何もしていない主人公の語りで述べられてはいるんですけど
田中慎弥さんの作品は一切技量を見せつけようとしてない感じがするな
とても面白かったのにあらすじに入れようとするとどうしても上手く説明できなくなりますね
では具体的に良かった点を2つほど紹介
まず1つ目は
いずれの作品も共通してるんですけど
何気ない日常を描く力ですね
何も起こらない中学生活なんて同じ生活の繰り返しでしかないし
実際何もない日だったんだなって印象を受けるのに読んでて飽きないし日常の捉え方に人間性がちゃんと反映されているから面白く読める
小説の構造とか主題とかが面白いっていう以外の観点から面白さを感じさせる小説って最強だよな
って思いますね
最近だと石田夏穂さんにも感じるけど
どの小説も読みたくさせる力があるよなあ
2つ目は
外側から見えない薄暗い感情の描写
いずれの主人公も結果論で言えば何もしてないから実際では看過されるんだろうけど
心の内側ではさまざまな悪意や攻撃性が渦巻いていて
思春期の少年からしたら人生のかけがえのない時間を害するもので
その悪質さというか絶望感みたいなものを文章を割いて書いてるのは何だかとても良いなって思ったな
その他にもいじめを受けることで救われる感覚を自傷欲のような形で書いているところや
選挙といじめのヒエラルキーを重ね合わせているところなど
小説を書く力のオンパレードのような小説で素晴らしかった
田中慎弥さんの書く力エグいよなぁ