あらすじ
主人公の集は施設で育っていて、同じく施設で育つひじりと2人で過ごすことが多かった。ある日、アパートで大学生のモツモツと仲良くなり、紫の花の植え替えを頼む。また、施設では色んな実習生がやってきて、和歌山への遠征を行ったり、日常生活で触れ合ったりして…という話
主人公 集
友人 ひじり 父親の元へ行く
モツモツ 大学生の友人
正木先生 ひじりにセクハラ、妊娠
優衣先生 実習生、また会いに来る、去る
光輝先生 実習生、実習途中で逃げる
井戸川射子さんの作品は日常性と文章の柔らかさと誠実さが特徴的なんかなって思った
物語に起伏があるってよりは主人公の視点から見える事実を順に述べているような感じ
ちゃんと時間に流れがあって主人公が社会に属してる1人の人間であるということが基盤にしっかり構えられているのがよく伝わってきた
では、この小説で魅力的に思った点を2点ほど紹介
まず1つ目は、妊娠している先生の描写と児童へのセクハラ
この話の施設の先生のなかに正木先生という妊娠をしている先生の描写があって
その描写が妊娠を綺麗に書きすぎていなくて
むしろ気持ち悪くて唾を吐くとか
汚いような面も書いているのが子どもから見た妊娠のリアルさみたいなものを感じて良かった
そしてその正木先生はひじりにセクハラをしているんですけど
その書き方が気持ち悪いわけではなくて
物悲しさを感じさせるんだけど先生のバックグラウンドが語られないから
どういう過去があっての行動なのかはわからない
っていうその感覚が絶妙に面白い
2つ目は、集の心情の描写
この作品は限りなく集に寄り添っている書き方でありながら肝心なところで集の心情が明言されていない
ひじりが父親と仲良くなっていくことや施設の実習生がすぐに施設を出てしまったり、出て行ったきり戻ってこなかったりすることに関して
寂しいとか描かれてないのに浮かび上がる物悲しさが心に静かに訴えかけてくる
それがとても心地良い
子ども視点っていうのを仰々しく書いてはないんだけど
大人視点で明言したくなることをあえて書かなかったり
物事への感じ方が大人の常識とは一線を画していたり
細々した表現への配慮がとても美しい
これはやっぱり芥川賞受賞作も気になりますね