活字中毒者の禁断症状

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【読書感想文】ゲルマニウムの夜 王国記I/ 花村萬月

芥川賞受賞作を含む連作短編集

 

ゲルマニウムの夜

朧は自らが育った修道院兼教護院に戻り、農作業をして働いていた。朧は宇川君や北君といった先輩たちにいびられながら汚れ仕事をこなしていく。ある時シスターの見習いとして働く教子に出会い、教子の処女を奪っていこうとするが…という話

 

花村萬月さんは存じ上げていて気になるタイトルの本もいくつかあるし

思ってたのと違って全体的に怖さが強かったけどとても面白かった

エンターテイメントとして書いてるってよりも哲学的に書いている印象が強くて読み応えがあった

 

 

教子

セルベラ院長

 

宇川君

北君

 

シスターテレジア

 

ジャン

 

では具体的に良かったところを3つほど紹介

まず1つ目は

文脈に合わない暴力

この作品の主人公である朧は心が全く読めないというわけではなくて共感できる行動も多いのに

暴力性の発露のタイミングや仕方については全く共感できない

心とは別の部分から発せられてるみたいだった

そもそも施設育ちであることや人を信用してないこと施設長の性の捌け口として育てられたことが歪んで収納された人間から暴力が生まれている流れにはとても納得できる

 

2つ目は

人間の根源を担う性欲

この話の中では性欲がポイントとして描かれているところも多い

教子やシスターテレジアという女性たちと朧の関係性やセルベラ院長と朧の関係性にも性欲が前提としてあってから形成されている気がする

そして欲の形も人によって様々でまるで人間性を築く土台みたいに思えた

欲の形によってその上に形成される人間関係の方向性や特徴もある程度影響されていくような

現代社会において性欲というものは品のない薄い概念みたいな捉え方をされる傾向があるとは思うけど

実際には人の基盤を形作る性質の一つであることを改めて考えさせられた

 

3つ目は

人を惹きつける素質

本作で朧は残虐性をもった人物として描かれているとして描かれている一方で

話が進んでいくとともに北君や宇川君に一目置かれているだけではなくてジャンという人物にとても慕われるようなスター性をもつ人物としても描かれている

人を惹きつける素質って何なんだろうって考えた時に程よい非共感性なのかなって思った

朧の過去は周りに共感されるようなありふれたものではないしとても暗いもの

それゆえに自暴自棄なところがあって衝動に身を任せるのに躊躇いがない

だから少しの正義感も目立つほど強く映るのだろうと考えると

共感できない程よい距離を感じさせる出自や性格とかって人を惹きつけるものがあるんだろうなって思った

 

色々なことを考えさせてくれる作品だった

続編気になるな…