印象に残った2つの話を中心に
『春立つ』は、
猫屋という居酒屋を営むカナエさんは昔丘陵の斜面を滑り落ちた先で出会った若い男と仲良く暮らしていた時があったが、その生活は春になるたびに終わった。それでもカナエさんはそのことが忘れられなくて…という話
『離さない』は、
ある日同じマンションに住むエノモトさんが人魚を引き取ってほしいとても相談に来た。人魚は浴槽をただ泳いでいるだけなのに人を惹きつける。やがてわたしは仕事に出るのも浴槽から出るのも億劫になってきて…という話
他にあんまりいらっしゃらないので時々読むと新鮮に楽しめる
面白かったところを3つほど
まず1つ目は人魚の象徴
とにかくこの本で1番印象に残ったところではあるんですね
人魚への依存症みたいになるところが
人魚って昔話とかで出てくる時にもそういう依存の対象として描かれることが多い気がして
調べたらたぶん何かしらの答えはあると思うんですけど
自分的には食欲と性欲の両方の象徴って考えるのが1番しっくりくるかなって思います
いやーそれにしても怖いわ依存
2つ目は『春立つ』の従来の話と逆の書き方をしているところ
一時の幸せな空間って御伽噺とかだとそこから目覚めた時の絶望を書くことがメジャーな気がするんですね
浦島太郎の竜宮城とかみたいに
だけどこの話って最初から最後までその一時の幸せな空間をずっと良いところとして一貫して描かれていて
人魚とは逆で期限付きの少しの幸福を拠り所とする美しさみたいなものが表現されているみたいで読んでて爽やかな気持ちになれた
こういう話の良いところって結論が綺麗事に思えることでも受け入れやすいところがあって
さわやかな読後感が何の弊害もなく味わえますね
3つ目は熊の悩み
本書の最初と最後の話は熊と人間の話で
熊が人間と同じように喋って仲良くなろうとして気遣いもちゃんとできる存在として描かれるんですけど
一瞬だけ獣の本能みたいなところが出るところがあって結局上手くはいかないんですけど
熊がマイノリティの象徴だと思うんですよ
どれだけ他が良くても根本的な差異によって関係性が上手く構築できないという様子を描いているのが
よりくる
熊と人間の話にしたらよりわかりやすいし、上手くいかないのも頷けてしまうから
もどかしい…
自分は獣の本能が出た瞬間を受け入れられるかなって考えると絶対受け入れられる自信がなくて
うーん、良くないけど難しいよなってなる
ファンタジーを通して色々思わせられる本ですね