活字中毒者の禁断症状

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【読書感想文】イキルキス/ 舞城王太郎

舞城王太郎さんの短編集

 

『イキルキス』

同じ高校のクラスの女子が相次いで6人突然死した。八木が家にやってきて、殺そうとしていることを伝えにくる。八木のことが好きだったことに気がついて倉の中で八木に触れ…という話

 

『鼻クソご飯』

弟がロリコンにレイプされて殺害された。それをどうしても許せない主人公はロリコンやゲイに殺意を抱く。そのことで暴行を加えて捕まる。刑務所で暮らしていたある日、生後数ヶ月の女児をレイプして殺害してきた男が収監されて…という話

 

『パッキャラ魔道』

玉突き事故に巻き込まれた主人公一家。父親は他の被害者を助けて英雄呼ばわりされるが、母は父が自分たちを置いて他の人たちを助けたことに不満を抱く。この出来事をきっかけに両親はすれ違い、離婚し、それぞれの別の家庭をもち、主人公と兄は家を出てグレて…という話

 

一応短編集っぽいんですけど

上記3作品は結構文量が多かったので読み応えがちゃんとありましたね

『鼻クソご飯』が舞城王太郎作品でも珍しいくらいずっと雰囲気の暗い作品で苦しくて好きだったんですけど

タイトルよね

どうしてこのタイトルか自体は納得やけど良いって言いづらいな

 

ではそれぞれ良かったところを1つずつ

『イキルキス』は死を前にした人への恋慕

クラスの女子がみんな死ぬということがなんとなくわかってから主人公がクラスメイトが好きだと気づくんだけど

それが死によって相手を美化してるんじゃないかと考えたり

死を前にした人に対して性欲を抱くのは不誠実じゃないかと考えたり

その考え方が面白い

 

いつ誰が死ぬかなんて分からないから極論を言うと誰しも死を前にしてる人と何も変わらないはずなのに

死っていう非日常な事象があることで主観的に見た人の価値みたいなものは大きく揺らいでしまう

そして恋愛はある程度の未来を前提としているから未来が限られている人に対して抱くべき感情なんかどうかってちょっと難しいよな

 

この行動って自己陶酔してるだけなんかなみたいに思うことが多いとこの話の軸にはとても共感しやすいですね

 

『鼻クソご飯』は衝動と正義感

主人公はロリコンやゲイに対して許し難い感情と暴力性を抱いていると同様に

弟を犯して殺した犯人はその行動を取らなければならない衝動みたいなものを内側に抱えていた

っていう衝動の怖さみたいなのが面白かった

 

衝動とか特定の物事に対する執着って多くの人がもっているけど普段は見えないところにあると思うんですよね

すごい優しい印象のあった人が特定の人をめちゃくちゃ傷つけているみたいなことを知ってしまうと怖いって思ってしまう

でもその怖さって知らない、理解できないことからくる怖さでこの話の主人公みたいに多くの人にはその行動たらしめる過去があるってことを気づかされた

だから具体的にどうすればいいのかはとかはわからんけどその気づきは持ってたいな

 

『パッキャラ魔道』は理不尽な衝突

最初の衝突事故は主人公たち一家からしたら完全に理不尽なものだし

その結果起こる両親の衝突も父親からしたら他人を助けたことを怒られてるから理不尽なもので

最初の事故がその後の展開の暗喩になってるような印象を受けましたね

 

この話からは多くの人にとっての善行が大切な人にとっての善行とは限らない難しさを感じる

善悪とか人の感情とかって主観的なものだから周りからはどうしようもないところが多いと思うんですよね

でもこの話のように崩れていくところまで崩れていってしまうこともある

この話の中の父親の立場だと何をどうすれば良かったんかなって思う

とりあえず息子たちには寄り添ってあげるべきだったのはあるけどそれ以外難しいよなって思ってしまいますね

人間関係って難しいよなあ

 

 

 

舞城王太郎さんの作品は読んでる時間と同じくらい読み終わってから考える時間があるんですよね

道徳心とか価値観とか色々刷新されてく感じあるよな