あらすじ
弁護士を目指して勉強している新見はある日、両親と長男が殺害された折鶴事件の遺児である元同級生の紗奈江に出会う。彼女の家に行くようになったとき、探偵から彼女の家のプランターに元交際相手の死体が埋められていない確かめるように依頼される。
このことを契機として、新見は折鶴事件について調べ始めるが、事件を調べ始めて出会う人間には狂った人間がたくさんいて…という話
暗澹とした中村文則さんの作品の雰囲気のなかでミステリー色の強い話になっていて
物語の主軸となっている折鶴事件の魅力や登場人物たちの暗さがとても良かった
もしかしたら真実はとんでもなくバッドエンドである空気感は出しながらも最後の結末はハッピーエンドでもバッドエンドでもないようなものになっていて読後感も爽やかすぎなくて良い
では具体的に良かったところを2つほど
1つ目は事件に至るまでの日置家の状況と事件の真相
美しい母の由利と平凡な父の剛史、引きこもりの兄と生き残った妹の紗奈江の4人家族のバランスが由利の美しさに端を発して崩れていく様子が詳細に繊細に描かれていてすごい
由利を監視するために剛史がカメラを設置することから両親の関係性が崩れてその影響が兄を歪ませてその影響を紗奈江が受けるという流れがとても自然で
抗いがたい絶望を感じる
そしてその関係性が折鶴事件に集約されているという結果が流れとして綺麗
矛盾がなく描かれている作品が好きだからすごく好き
2つ目は主人公の新見の立場
物語の初めは新見が子供の頃にRという存在を自身のなかで抱えていてその暴力性みたいなものを秘めていることがわかる場面から始まるのに
大人になった場面で新見は狂った存在じゃなくてどちらかといえばまともな人間になっている
その人間性が紗奈江の影響で崩れかけるけど完全に壊れることはなくて
紗奈江を支えているような立場で描かれている
これまで中村文則さんの作品は12作読んできて
主人公が壊れることが多かったんですけど
この作品は他の作品の主人公と人間性や過去の境遇みたいなものは共有していることが多いけど立場が決定的に違っている
そこに人生の幅を感じてしまって
全体的に暗い作風なのにその根底に希望を感じたから全体的に暗くなりすぎずに
面白く読めた
たまにこういう作品があると主人公が鬱屈となっている作品の良さも際立つ気がして
良かったなって思った
調べてみると賞とかにはノミネートされてなくて
代表作ではないのかもしれないんですけど
自分の好みだった
中村文則さんの作品には飽きがこないなあ