あらすじ
国のために命を懸けて戦争をするべきだという軍国主義を重んじる中学生の勇二は、何事も器用にこなし、軍国主義を支持していないクラスメイトの啓介に誘われて、魔女が住んでいるという噂の洞窟へ出かける。啓介に裏切られ、1人で洞窟を進んだ先では、勇二よりも1歳上の涼子が図書館を作っていた。勇二は涼子と仲良くなり、自分の兄である優一が涼子と交際していることを知る。彼らは3人で遊ぶようになるが、やがて兄に軍事命令が出て…という話
古市憲寿さんの小説はこれまで単行本化されたものは全部読んでて
芥川賞候補になったものも2作あるんですけど
本作は何の賞にもノミネートされてないんで
正直あんまり期待してなかったんですけど
めちゃくちゃ良かった
これが分かりやすい形で評価されないのがとても悲しい
古市憲寿さんの作品の登場
では具体的に良かったところを3つほど紹介
1つ目は
戦争に焦点を当てない戦争の描き方
この小説で語られているのは確かに戦時中のことなんですけど焦点が当たっているのは
戦争とは関係ない人たちの暮らしとか人間性とかの部分ですごく新鮮味が感じられた
昔の人たちが書いたこういう話はあるんだろうけどなかなか読みづらいところもあるからこの本がその架け橋になってくれる感ある
特に教科書とかでしか知らない戦争って人々の心が書かれてないからだいぶ倫理観終わってる感じしたけど
表面上言ってることと本心が違うことが多くあるということが書かれていて
ちゃんと人が行った出来事として戦争を感じることができた気がする
自分の性格上どれだけ国が戦争が良いっていうイメージを植え付けようとしても絶対に良いって思うの無理だから
そういう人もいたけど表面上抵抗することができなかったってことを考えると戦争の恐ろしさをより強く感じますね
2つ目は
勇二の気持ちの変化
この小説の核となる部分だと思うんですけど
勇二が軍国主義だけど
周りに大切な人ができて酷いことをされて
周りの人たちを守ることと軍国主義が釣り合っていない
って感じて次第に気持ちが変わっていく
というのも良いんですけど
最後の最後のあたりの天皇の写真のくだりとか読むと単純に軍国主義を支持しててそれを捨てたわけじゃない
もっと芯のある人物だってわかってすごく良かった
3つ目は
啓介や涼子の背景
この小説の中ではとにかく啓介・涼子・優一の人間性に惹かれたところがいくつもあったんですけど
その人たちの抱えていた想いが最後の辺りで語られる部分があって
特に啓介についてはあんまり最後の方まで過去については触れられてなかったからその辺りにも言及してくれて良かった
登場人物を物語を進めるための駒として使ってる感あんまりなくて良い
人の心をある程度幅も奥行きのあるものとして書くのって特にこういう小説だと大事な気がしてしまうのでね
読んでて久しぶりにここまで良かったって思えたかもしれん
古市憲寿さんは社会的な事件とか物事を小説にするのが上手いのかもと思った
これからも読み続けていきたいな