あらすじ
精神科医として働く小塚のもとに美しい1人の女が訪れた。小塚は彼女の記憶を書き換えるためにECTによる治療を繰り返す。やがて彼女は全ての記憶をなくして…という話
中村文則さんの作品散々読んでるはずなのに衝撃がすごい
たぶん映像化してもこの凄さを残すのは難しいと思うし小説ならではの面白さが詰まった作品だと思う
あらすじで書いた内容が出てくるまでとにかく長いページがかかるし
誰の視点なのかわからない箇所が多い
それなのに読み終わった時の納得感と良いもの読んだ感がすごい
本当に良かった
では具体的に良かったところを3つほど紹介
1つ目は
作品全体の構成
本作は不気味という状態をそのまま構成にしたみたいに雑多な構成になっている
初めはある1人の男が手記を読んでいて
その手記と男の場面の繰り返し
でも途中から視点が変わって男の正体が明らかにされてからは医師の視点になって
その後ファイルの内容とか挟みながら進んでいくんですけど
この構成で作品成り立たせるのすごい
手記と本文の繰り返しは初期からあったけど視点まで変わってこれほど混ざり合ってるのはなかった気がする
2つ目は
精神科医の精緻な描写
中村文則さんの魅力の1つだと思うんですけど全く矛盾のない背景や診療の描写がすごい
精神科医が過去に精神に対して負の影響を受けた事象を抱える人物としてその背景が書かれていることや診療の1つとして催眠を使ったり電気を使ったりしてるっていうのがわざとらしくない具合に調べ上げられて書かれてることで
物語にすごく現実味がある
中村文則さんは小説家だしもともと法学系の出身のはずだから医学系の知識とかもともとあるわけではないだろうし
初期の作品とかよりも治療が具体的に描かれてるし
新しい小説を書くために労力を惜しまない人だよなって思う
3つ目は
他人に自分を埋め込むという発想
これがこの小説の1番のポイントだと思うんですけど
相手への復讐として罰を与えるのではなくて自分の記憶を埋め込むことで過去の自分の行いに対して憎んで被害者の死を心から悲しませる
っていう発想が切なさはあるけどすごく理に適ってるものである気がして
この発想を精神科医として立場を通して実現可能ではないかと考えてることともにすごいと思う
でも実際にこの復讐してると考えるとだいぶ胸が痛い
愛情と狂気の境を考えさせる感じがとても中村文則さんらしい
すごい小説だったなって毎回なるわ
最近の小説も面白そうやし読まないとな