活字中毒者の禁断症状

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【読書感想文】来世の記憶/ 藤野可織

藤野可織さんの短編集

特に心に残った3つの話について紹介

 

『切手占い殺人事件』

クラスの女の子たちが切手にハマった。ハマったというレベルではないかもしれない。彼女たちは切手を集めることに熱中して男たちが目に入っていないようだった。そして男たちからしても彼女たちの区別ができなくなる。そんなある日切手を巡って殺人事件が起こり…という話

 

『スパゲティ禍』

主人公はスパゲティが好きで一人暮らしを始めてからよく自分で作って食べていた。ある日人間がスパゲティとなってこの世からいなくなるという現象が相次いで目撃される。それでも主人公はスパゲティを食べる欲求を捨てられなくて…という話

 

『怪獣を虐待する』

女の子たちはみんな怪獣を虐待しにいく。男たちも怪獣を虐待しにいくし、男女混合で行くこともある。お母さんたちは野蛮だと言って止めるけど、夜中にお母さんたちもこっそり怪獣を虐待しに行く。ある日怪獣が死にそうだという噂が流れて…という話

 

あらすじ下手やなぁ

まあそれはいいとして藤野可織さんって短編集が1番面白い作家さんだと思うわ

現在活動されてる小説家のなかで1番って意味で

しっとりとした、雰囲気のいい話から設定がぶっ飛んでる話までの幅が広いから短編集読んでて全然飽きがこないしずっと楽しめる

もっと話題になっても良いよなぁ

 

では良かったところを2つほど紹介

1つ目は

欲望と道徳心のバランス

主人公はスパゲティに対する食欲と

死者を供養する気持ちが共にあるけど

食欲が勝ることで世間から隔離されてしまう

これは知らない人の命と自身の欲望を比べた時に自身の欲望を優先してしまうことの比喩のような話だと思うんですけど

今回の話では死者がスパゲティにしか変わらないから食欲が勝る人の方が少ないけど

もし死者が変わったものでしか栄養を摂ることができないとするとどれだけの人が食欲に勝つのか

そして道徳心が勝つことが正しいのかそれとも食欲が勝つことが正しいのかということを考えてしまう

 

主人公が怪物のような恐ろしさをもってると錯覚しかけたけど人間ってそもそもこの話の主人公みたいなのが核で

それを恐ろしく思うなんて傲慢だよなって思った

 

2つ目は

強者の比喩としての怪獣

『怪獣を虐待する』でいう怪獣は

昔は強かったけど今は森に拘束されていて

カラフルで映える体液を出して

すぐに傷が再生する存在

そしてもう少しで死ぬという噂が広まっても信じようとしない

っていうのが

いじめの比喩のようでとても気持ち悪いながらも面白かった

 

怪獣から出る血が綺麗で

自分を飾るために利用する

っていう部分が

いじめているという事実で自分の力の強さをひけらかしている人間を表していて

彼らにとっての傷と

被害者の傷は意味合いが全く異なるということが

よく書き表されていてとても良かった

 

藤野可織さんの話は最短距離で心情の根源を掴まれるような強さがあるよなって思いますね

面白い