活字中毒者の禁断症状

引きこもりが読書感想文を提出するブログ

【読書感想文】温泉妖精/ 黒名ひろみ

すばる文学賞受賞作

 

あらすじ

整形を繰り返している27歳のOLの絵里はとあるブログで紹介されていた温泉宿に泊まる。しかしそこは温泉の素を入れた古い浴槽しかなく、栄養の偏った食事のひどい温泉宿だった。主人公はすぐに帰ろうとするが、そこで様々な記憶が思い出されたり、クレーマーの中年男と出会ったりして…という話

 

自分のなかで勝手にすばる文学賞って日常に地続きでとても丁寧な描写がされる作品が多いと思ってるんで

この作品はすごくすばる文学賞っぽかった

派手な展開があって面白いっていう小説ではないけど

昔の思い出とか情景描写とかを絵里という人間に結びつけることで

1人の人間の立体感がすごく出ていて

ちゃんと1人の人間の話を聞いた感じがある

 

では面白かったポイントを2つほど紹介

 

まず1つ目は

中年男と酷い温泉宿の役割

影という口の悪いクレーマーの中年男は

動物に対して優しいっていう一面はあっても

全く良い人と思えないくらい嫌な人なんだけど

だからこそ主人公は男に対して引け目が一切なくて開放的になれている

 

また温泉宿は風呂にカビが生えていたり

食事の栄養バランスが偏っていたりと

宿としては酷いけど

祖母が経営していた宿を潰さないように孫のアンナちゃんが必死に守ってる宿という人情味のある背景があって

完全には憎むことはできないような暖かさを感じる

 

この中年男と温泉宿っていうのがこの物語のなかでは似た役割を果たしてる気がするんですよね

 

2つとも醜さと温かさを併せ持つものとして描かれているから

絵里がコンプレックスに向き合う気になった

っていう流れが腑に落ちる

 

出来のいいものだけがいつも自分の支えになるわけじゃなくて

出来の悪いものに共感して心が癒されることもあるし

今回の場合だと醜さというマイナスも温かさというプラスの側にあるから

コンプレックスというマイナスなものにも向き合うことができることもある

っていうのが納得できたな

親しみやすさってやっぱり大事よな

 

2つ目は、整形と劣等感

主な舞台としては温泉宿なんだけど

この話は過去の回想も結構多くて

整形の理由が姉と比較した時の劣等感があったから

というだけではなくて

具体的にどういう扱いを受けていたのかがよくわかるように書かれていて

東京にやたら連れて行かれてたっていう話は露骨すぎて苦しいものもあるけど

とてもわかりやすいよなって思いますよね

 

そして今現在の状況は姉の方が悪いとはいえ

コンプレックスとその状況は全く別の話っていうのも伝わってくる

改めて何でコンプレックスって鮮明に過去を連れてくるんかなって考えましたね

秘めてるエネルギーがすごいわ