文藝賞受賞作
あらすじ
大学を辞めて姉さんの喫茶店で住み込みで働いている主人公。向かいのアパートに男の子が引っ越して来て窓越しにその男の子の生活を眺める。隣の部屋では姉さんが色んな男を連れ込んでいて夜な夜な声が聞こえる。
ある日姉さんのもとに先生がやって来て…という話
青山七恵さんの作品は『ひとり日和』に続けて2作目
日常のなかで少しだけ特殊な環境とテーマを描く作品性が繊細で読みやすくて柔らかくて好き
捉えきれない感じはあるけど心地よい読書体験ができますね
では面白かったところを2つほど紹介
1つ目は向かいのアパートの観察の描写
主人公はベランダから見える家の男の子を窓越しに観察し続けるんですけど
男の子への想いが直接書かれることはなくて
それでも男の子が家に女の子を泊まらせた時にはショックを受けている様子が描かれている
これがどういう気持ちなのか考えると
恋心だとしっくり来なくて
自分的には主人公が大学を辞めて人生が主体的に進んでいないのに
他人の人生の観察者になって他人が成長していく様子に漠然と不安を抱いてる
っていう解釈がしっくり来るんですよね
これを意図的に書いてるんだとしたら
心情と物語の距離感が絶妙すぎて恐ろしい
2つ目は姉さんと先生の関係に対する主人公の描写
物語全体を通して主人公は姉さんに対して深い愛情を抱いていることがわかるんですけど
先生という存在が現れて姉さんが先生のために色々する行動をあまりよく思っていない
これは姉さんが主人公にとって孤高の存在に見えていたからなのかなって思う
姉さんは色んな男の人と関係を持っているけど
その様子は淡白で希薄だから
1人で強く生きている印象が強い
それが大学辞めて姉さんの店以外の交友関係があまりなくなった主人公にとっては自分の理想像として映っていたんじゃないかな
って思うんですよね
だから先生に対して動じてる姐さんがちょっと嫌なところがあったのかなって
いずれにせよ
心情と物語の距離感はやっぱりとても好きだな
って思いますね
短めだけど心に残る話だったな