芥川賞候補作
あらすじ
大学院で哲学を研究している主人公は、仲間とともに映画を作ったり、ゲイの集まる店に行き肉体関係を築いたりして過ごしている。修士論文を書かなければならない時期になり、女になるのか、生物になるのか、他者になることについて思案を巡らせながら修士論文を書き進めるが…という話
哲学の専門的な話は難しくて理解し切れないところも多かったんですけど
修士論文のテーマに自分の境遇を照らし合わせながら思考していくのがとても面白かったし
他であんまり感じたことのない読書体験だった
ただ人名覚えられない自分からすると登場人物多くて大変でしたね
では具体的に面白かったところを2つほど紹介
まず1つ目は他者との同化
主人公が所属しているゼミの先生の話で
荘子の話をしていて
その内容が
魚という他者との距離がある程度の近さになると魚になるのだというような話で
それを受けて主人公は他者との同化について考えていくんですけど
これが難しいけど面白い
2つ目はゲイになったことのバックグラウンド
主人公は決して性別を変えたいわけではなくて
ただ支配する立場、マジョリティの立場の男と肉体関係になることを望んでいる
そこに性別は関係なくて
生物として力のあるものに魅了されているような様子が窺えて
主人公を外から描いているんじゃなくて
ちゃんと心を描いているのがすごくいい
男が支配的な存在で力強さをもつものだから
それに屈服することに魅力があるという考え方はあまり聞いたことがなかったんですけど
異性愛がマジョリティの環境下において
性別の壁を越える恋愛ってそれなりの動機づけみたいなものがあることが多いと思うと考えるとそれがしっくりきましたね
最後の展開についても
自分を対象の内側に入れて懸けなければ
物事をやり遂げることができないみたいな意味なんかなって思いましたね
哲学者の方が書いた小説は難しいけど味わい深いですね
面白かった