吉川英治文学新人賞受賞作
宮内悠介さんの短編集
ここでは特に心に残った3つの話について
『百匹目の火神』
ある日を境に各地の猿による放火事件が勃発した。猿が火を恐れなくなったのはある島の一匹の猿が原因とされていて…という話
『ムイシュキンの脳髄』
プテリドピュタというバンドのボーカルの網岡は暴力的な男でベースのかなえと付き合っていた。そんな彼はオーギトミーという怒りを取り除く手術を受け、人が変わり、バンドやかなえと上手くいかずに一人で遠くの地に行くことになる。そんななか網岡を廃人と批判した週刊誌の記者の殺人事件の容疑者として、網岡が逮捕され…という話
『沸点』
かつてエスパーだった千晴の友人がアルコール依存症の治療のために通う団体は女性専用の団体で男性の先生による儀式を行うなどの活動を行っており、カルト教団のようであった。それを告発したことにより…という話
ポップめなタイトルと反して内容はほとんどが暗い話でどの話も登場人物が多いので全然覚えれんで読むのがちょっと大変やった
でも宮内悠介さんの作品は教養に富んでるし
学術的なことをバックグラウンドとして書いてるものもあるから読んでいて楽しいですね
では良かったところをそれぞれ1つずつ
まず『百匹目の火神』は
猿と人間の火に対する向き合い方の対比
現代人にとっての火って道具の一種みたいな立場で
調理や加工とかのために使うものっていう側面が強くて
その利便性に目を向けがちだけど
そもそもは森を焼き尽くすような恐怖の対象であったはずで
それを自分たちの配下に置くためには単純に火への形而上的な魅力が必要だっただろうから
猿にとってもそこの問題をクリアしたら火を扱えるよね
っていう考えがこの話に詰まっているような気がして
納得できたしちょっと現実味を帯びて怖いなっていう感覚もあった
これだけ考えさせてくれる小説好き
次に『ムイシュキンの脳髄』では
怒りというものの実体
自分的には1番好きな話で
怒りを消すと心情などの部分までが消えてどの部分までが残るのかということ
そして孤立は暴力性を生むということの
2つがこの話の基盤となっている部分ですね
そして
怒りを失ったことで大事な人たちと上手くいかなくなるっていう難しさとか
怒りを失うと殺人をできないのかという怒りの範疇のこととかの話がとても面白かった
愛のために怒りは必要だという考え方とか怒りと憎しみの距離感とかこれまで考えたことなかったことを色々考えさせられて良かった
最後に『沸点』では
宗教とは
この話のおおまかなテーマって
本物の宗教と偽の宗教について、
そして善意と偽善について、
人が集まると沸点のように一気に様相が変わる
っていうところなのかなって思いました
この話ではロシア人の先生による儀式で裸になったり首を吊ったりしなきゃいけない
でもそこにハマっている人たちは実際にそれで救われているところがある
それを部外者が偽物だというのは本当に善意なのかそれとも偽善なのか
っていうことを考えさせてくれて
面白いけど答えは出せないな
って思いますね
もっと人を救うことの傲慢さとか
宗教の実体とか考えなきゃなだな
という感想しか言えんけど
考えさせてくれたこの話には感謝ですね
とにかく面白いは