あらすじ
ある日主人公が家に帰るといつも家に呼んでいた風俗嬢が殺されていた。主人公は小中学生の頃の同級生である冴木と久しぶりの再会を果たしていたばかりの頃だったが、殺人の容疑者はその冴木だった。もともと冴木は連続婦女暴行事件の指名手配犯として逃走中の身であったのだった。小中学生の頃に2人は衝撃的な経験を共有していて…となっていく話
どちらかといえば中村文則さんの初期の作品でそれまでの作品と少し書かれ方が変わっている印象ですね
特に主人公が嫌な奴だったり、ちょっと狂っていたり、病んでいたりという感じじゃなくて常識的な感覚をもった良い人っぽいのがそれまでの作品と大きく違う気がしますね
この作品で面白いところを2つ挙げるなら
1つ目は主人公と冴木が共有している複数の経験
ホームレスが集団で知的障がいのある女性を強姦しているところを目撃した経験や
ホームレスが女性の喘ぎ声を録音したものを聞きながら死にかけていたのを見捨てた経験
を2人とも同じように共有しているのに
2人の心のなかでのそれらの経験が異なった形で捉えられて2人を変容させていくのが面白い
2つ目は主人公が知らない間の冴木の変化
主人公は過去の経験に対して自責の念に駆られていたのに対して
冴木は連続婦女暴行事件の容疑者になる道を辿っていて
最後のメールで自分でも悪いという思いはどこかにあるのに変えられない、逆らえないものに翻弄されてしまっているような胸の内が語られて
息苦しさが逼迫してくる
全体的に決して明るくはないし、暗いイメージはあるんですけど
中村文則さんの作品では主人公で語られることが多い心情をもつ人物が冴木という友人として出てきて
同じ経験に影響を受けた2人の違いが明瞭に描かれているのが面白かった