芥川賞候補作
あらすじ
マッサージ屋で働くシングルマザーの母をもつ小学生の女の子である主人公は、母が働いている間カーテンを隔てて働き終えるのを待つ。初めマッサージ店に来る客は性別を問わなかったが、次第に男性客が増えてきて母は疲弊していく。学校では母は変タイマッサージ師呼ばわりされて…という話
話の着眼点だったり、場面の切り取り方だったりっていうのは尾崎世界観さんらしさが溢れている一方で
小学生の女の子の視点だから語り口とか全体的な雰囲気は尾崎世界観さんらしさをだいぶ捨象してる気がした
専業作家さんではないのにそんな攻めた試みをしているのが今後の作品の幅を広げているようでますます楽しみ
この話の面白かったところを3つほど
まず1つ目は言葉で表せないからこそ伝わる本質の描き方
主人公が小学生で、ちょっと過度なくらい言い回しが稚拙なんですけど
だからこそ感覚のまま描き出してるから
なんとなくお母さんが汚れている感覚とかクラスの男の子のおじいちゃんに興味を抱く感じとかがより生々しく描かれていて
それに伴う薄気味悪さとかが引き立てられていてとても良い
特にもともとどこか壊れてる人たちが来ていたのに
それが何かを探す人たちになった
っていう言い回しはとても好き
なんだろう主人公自体は間違った捉え方をしているのにそれが本質を突いている気がしますね
2つ目はマッサージ屋で働く母親との距離感
カーテンを一枚隔てただけなのに
それが大人と子どもの境界のような印象を与えていて
カーテンだからところどころ漏れ出てくる情報からいろいろなことを察知している様子が
思春期くらいの感覚みたいだなって思いますね
こういう言葉で直接書くと興醒めしてしまいそうな感覚をカーテンに託すのはこれぞ文学って感じがして好き
3つ目は母と娘の関係の変化
最後の場面の周辺で
それまでカーテン越しに一方的にお母さんの影を見るだけだったことに変化が表れて
その結果影が一つになるっていう一連の展開は
親子関係の相互依存性を描いているようで
とても綺麗ですね
純文学的な作品でこういう象徴的な終わり方をするものがとても好きなんですけど
あまり多くはないので今作の終わり方はとても嬉しくなった
幅がの今後どう広がるのか楽しみ