阿部和重さんの初期の代表作の1つ
あらすじ
映写技師として映画館で働く主人公はある日、昔の友人たちが事故死したことを友人のイノウエに伝えられる。彼らは昔マサキという男が作った塾でスパイになるための訓練を受けていた。彼らはヤクザと関係していたある事件をきっかけにバラバラになったのだが、事故を契機として主人公の周りに不穏な人物や事件が現れてきて…という話
全編日記で構成されている作品で
途中まで明かされていないことが多くてどういうことなのか把握するのに時間がかかったんですけど
物語が展開していくにつれてどんどん世界観に引き込まれた
結末でさらに謎が深まるというか、なんというかな作品だった
では面白かったところを3つほど紹介
1つ目はスパイを養成するための塾の不気味な雰囲気
もともと映画の専門学校の生徒でしかなかった仲間たちとただの不審な男くらいでしかなかったのに
スパイを育てるという枠組みの中に彼らが入ったことで転がっていくように異常性が増していっているのが不気味で良い
特別変な人もいないのに変になっていく集団を通して人間関係の複雑さを感じますね
2つ目はカヤマという男の存在
若くてチャラい男なのにやたら暴力的で
危険な思想をもった人物で
主人公は彼に巻き込まれて大変な目に遭うのに
周りから忘れられて存在しなかった人物のように描かれている不思議さが良い
思想と外見に差があることだけで魅力はあるのに存在が不安定っぽいのが
1人の人間を超越した存在のような印象を与えてくれてて心地いい
3つ目は主人公、カヤマ、イノウエの重なり
最後のあたりで誰が誰なのかがよくわからなくなるんですけど
人が変わってしまっているような様子がどういう意味なのか
彼という1人の目が映し出した映画で
映画は色んな人の視点からのカットが用いられるから
人の個人性みたいなのが消えた状態が現れたような感じになっているのがとても不思議な感覚
しっくりとくる解釈がありそうで掴めない
面白かったのは確かなのに
色んな不思議さが未解決だ
阿部和重さんと伊坂幸太郎さんとの共著の話も含めると読んだのは3作目なんですけど
どれも似てなくて
全部違う人が書いたと思った方が自然な気がするほど一つひとつの作品の世界観が干渉し合っていなくてすごい
まだまだ気になる作品がいっぱいだ