文學界新人賞受賞作
あらすじ
重病を患って声帯を摘出した主人公。長崎県に住む彼の親族にはジェロニモと言われる叔父がいた。ジェロニモは他の家族と血の繋がりがなく、祖母が戦争後に白人に弄ばれたときに生まれた子だった。ジェロニモは祖母の墓から掘り起こした十字架を手にして教祖のような雰囲気を纏っていた…という話
これは1990年代に書かれた話なんですけど
文章の構成力といい面白さといい
綺麗な文学作品としてとてもよく纏まっている話ですね
筆者の青来有一さんの地元の長崎の土地性を踏まえて書かれているのもすごい
面白いところを3つほど
まず1つ目は何と言っても叔父の家族での立場
叔父だけが兄弟姉妹のなかで唯一血のつながっていなくて
しかも祖母が戦争後に白人に騙された結果生まれた子どもであることから
親族全員の敵のように思われていて
気味の悪い存在であるっていう設定が複雑だけど現実味はあって
しかもそれが叔父の性格と関係しているのが面白かった
2つ目は長崎の土地性
長崎がキリシタン大名が治めていた地であることと第二次世界大戦で原子爆弾を落とされた地であることを踏まえて描かれていて
特に十字架を掘り当てて
それを自分たちの本質であるように捉えている叔父っていう構図が
叔父の血に白人の血が混ざっている事実とも対応しているようで良い
3つ目は声を失った主人公から見た叔父
都会で見た叔父のような人は不気味な人物であったのに対してだんだん目の前の叔父が本当に神の力を司る人物のようにおもえてくるというのが
宗教の不気味さと崇高さというのが表裏一体であることを示しているかのようで
さらに主人公は声を失って婚約破棄をされたという絶望をバックグラウンドとしてもっているからこそ
叔父に救いを見出そうとしているというのが
宗教の根源的なものを見た感覚になりましたね
青来有一さんの作品を4つ一気に読んだんですけどどれも話がとても面白かった
『爆水』も面白そうだし読みたいな