文藝賞受賞作
あらすじ
数ヶ月前に姉さんに拾われて誕生した半沢良。姉さんの言われたように19歳の人間として生きていくことにした半沢良は、ガソリンスタンドのアルバイトに応募するためにリレキショを書く。そして半沢良がガソリンスタンドのアルバイトとして先輩の加藤さんと夜勤で働いているときに原付を押してガソリンスタンドに入ってきたウルシバラに手紙をもらって…という話
全体としては読みやすい雰囲気を放ちながらも主人公の半沢良の正体はわからないまま進んでいく
そこで顔の見えないウルシバラと手紙と体操だけで繋がっていくという柔らかく美しい繊細な話ですね
中村航さんの純文学風の作品は初期の方だけみたいで近年の作品はどちらかというとケータイ小説より?っぽいんですけどそれも何となくわかる雰囲気でしたね
面白かったところを3つほど
まず1つ目は半沢良の過去についての言及
話の初めから半沢良として生きている主人公が本当の名前ではなくて正体不明であることはわかるんですけど
本名とか半沢良になる前に関係のあった人物については少し述べられることはあっても
過去についての詳しい言及は一切なくて
それが過去を切り離した現在だけの脈絡で進む話を作り出していて
そのバランスが消化不良にならずに心地よい印象なのが良いし
面白いし、興醒めにならない
2つ目はウルシバラとの繋がり
ウルシバラは浪人生で昼夜逆転の生活を送っていて部屋の窓から半沢良を見ている状況で
半沢良との接触も手紙を送るだけで
っていう何もかもが細い糸のようなわずかな繋がりしかなくて
しかもどれも期限付きであることを感じさせるものであるので
半沢良の生活の刹那を感じさせてくれて趣を感じる
3つ目は山崎さんとのキスの場面
山崎さんという姉さんの友人の魅力がすごいんですけど
その山崎さんが家に来たときに夜中姉さんがいない時にキスをする場面があって
それがラブシーンという感じではなくて
とても人間愛を感じさせてくれる場面なんですね
言ってしまえば半沢良は正体を偽っている存在なのに実際の関わりの部分では慈愛に満ちているような人間性を感じさせる存在であることがこの場面から伝わるんですけど
それが人の本質を書いているようで
なんか、すごく、良かった
こんなこと言うのあれですけど
本作とても良かったんですけど
たぶん中村航さんの作品でこれほど自分が心に沁みるものが直感的にない気がしてしまって
他の作品読むかは正直迷う
でも今回の作品は本当に好き