三島由紀夫賞受賞作
あらすじ
団体で暮らすごく普通の主婦であった主人公は、ある日日常を捨て、長崎に旅立つ。そこでアトピー性皮膚炎の青年と出会い、肉体的に繋がりながらお互いの過去を共有し、打ち解け合うが…という話
鹿島田真希さんの文体が誰よりも好き
品があって性描写とかと読みやすいし、めちゃくちゃ引き込まれる
何がそこまで惹きつけるのか全くわからないのが悔しい
では面白かったところを3つほど
1つ目は名前の知らない青年との肉体的な関係
長崎という地であった青年は傷つけられた過去を抱えていて
お互いに共鳴し合うように肉体を重ねるんですけど
主人公は青年に長崎の雑多性みたいなものを感じていたのに
次第に傷の差異が目につくようになっていく様子が人間関係の始まりから終わりまでを詳細に描いているようで面白い
2つ目は死に惹かれる主人公の心情
かつて原爆の落ちた長崎を主人公は死に近い場所と捉えていて
そこに惹かれて長崎を訪れる
普通の幸せを手に入れたはずだったのに主人公は悲劇に依存しているところがあって
死をプラスのものとしてしか捉えきれていない様子に悲哀を感じます
でもわからなくはない感覚で
なんだかちょっときつい
3つ目は兄について
主人公が死に惹かれる背景として兄の自殺のことが書かれていて
母親に愛されてもなお自殺した兄と母親に愛されなかった主人公
その3人の過去がどう足掻いても上手くいかないのに虚勢を張るところもあって
とても苦しく、悲しい
だいぶ心に余裕がある時じゃないと引っ張られてしまいそうなほど辛く苦しい話なんですけど
品のある言葉で綴られた美しい文章に魅了されてしまいますね
なかなか他にない不思議な話ですね