活字中毒者の禁断症状

引きこもりが読書感想文を提出するブログ

【読書感想文】花腐し / 松浦寿輝

芥川賞受賞作

時間軸を超えた哀愁漂う作品


あらすじ

友人に金を持ち逃げされ、会社が自己破産しかけている主人公。彼は知り合いの不動産屋に家の立ち退きを依頼され、取り壊しの決まったアパートを訪ねると、そこには伊関という男が住んでいた。男の家の一部にマジックマッシュルームの生えた部屋があり、そこに1人の裸の女性が眠っていて…という話


切なさというか哀愁というかがとても心地いい

ほとんど全文が1日での出来事を軸に書かれているんですけど

時間軸が確定されていなくて過去を思い出す場面も多いのがより切なさを引き立ててる


では面白かったところを2つほど紹介

まず1つ目は伊関と主人公の境遇の近さ

取り立ての決まったアパートの立ち退きを依頼しに行ってる主人公も人生は下り坂にある途中で壊れかけのアパートの住人に近い境遇ゆえに意気投合するんですけど

2人が街がまるで巨大なお化けだとか死についてだとか色々と語り合う様子がなんとなく社会的な弱者とか終わりについてを示唆するような話を軽いトーンで交わし合う姿が良い


2つ目はマジックマッシュルールと腐敗について

きのこと腐敗が重ね合わせられて描かれていて

主人公は自分とかかつての恋人との思い出とかが腐敗していくのを感じている一方で

きのこによって頭がおかしくなるくらいの快楽とかそれに伴う痛みとかを感じているっていうのが

思い出のもつエネルギーみたいなものを感じさせていて

とても洒落てる


最近読んだ本の中でもっとも寂しさを心に直接届けるような本だった

死んだら終わりだけど、死にはすごく強いエネルギーがあって生き残った人に対して作用を及ぼし続けるということが哀しく切なく思わされた

良かった