芥川賞の候補作になった作品
話は、高校を卒業して垢抜けた主人公のもとに高校の同級生だったという男から借りていたお金を返したいと心当たりのない電話がかかってきてその男に魅力を感じて年に一回会うような関係になって少しずつ周りの環境が変化していく…という話
本谷さんの作品は、時々日本の昔話とか神話とかに近いものがあると感じるものがあって
『異類婚姻譚』とか
今回の話もそれに近いところがあったかなって
まず主人公は高校時代よりも綺麗になってることに周りから驚かれるのに対して
周りの人のことをまったく覚えていないし、
そんなまったく覚えていない人にお金を貸したかどうかも覚えてないっていう状況で
これは現実的にどういう状況かって考えるよりは昔話的な暗示だと考える方が自然な気がして
主人公が本当は中身だけ誰かと入れ替わってる的な
ただしっくりくる解釈は思いつかないですね
で、この話は主人公からしたら相手の男の人を好きではないと言い張ってるけど魅力は感じているという立場で
その男に会うことでそれまでの家庭環境が変容していってて
これは盲目的な恋愛とか宗教的なものの危うさを暗示している様な気がしてよかったですね
何より廃墟に侵入する場面で主人公が完全に男に毒されていっているのがわかるような構成になってて
心情の変遷がわかりやすくてよかったなって
唯一気になるのは最後の展開がちょっとなって思うところがあって
ありきたりっぽい人の薄さについての話になってて
話の成り行き通りに行けばそうなるんだけどもっとなんかめちゃくちゃな感じにしてほしかった感じはあるんですよね
レビューとか見ててあんまりっていう意見があったのはその辺りのことなんかなって思いました
リアルな女の人目線の純文学として本谷さんの作品はとても好きですね