最近の野間文芸新人賞候補作
話としては、妻に先立たれた主人公は眼に膜が張ったような異常に見舞われる。それとともに欲情が再び湧き上がっていることに気づく。そんななか、学生時代に関係をもった大学の後輩に約50年ぶりに出会って再び関わっていくなかで自分の今を受け入れていくような話。
と、母離れの話の2作。
紗倉まなさんについてなんですけど
個人的に本業じゃなくて小説を書いている方の中では、加藤シゲアキさん、尾崎世界観さん、古市憲寿さんと並んで好きな作家さんで
これまでに発表された『最低。』『凹凸』も読んでおるので今回で3作目ですね
どれも性に関する話なんですけど
その分野に関して職業柄特異的な視点というか鋭い角度の切り込み方ができると思うんでそこに焦点を当てるのは頭が良いんだろうなと思いますね
あと感性を司る仕事をしてるのに理性を駆使する仕事をするのはリスクもあると思うのにそれでもこれだけ書き続けているのはカッコいいですね
作品については話の流れが捉えやすくて、それでいて表現が繊細だから軽薄な感じにもならなくて
とても良い読書をした感覚になるんですね
今回のタイトル『春、死なん』ってまたオシャレなね
西行法師の和歌からの引用なんですけど
それを引用してそれに主人公の心情と照らし合わせる辺りが綺麗だなと
主人公の年齢と性別ともあっててね
筆者と年齢も性別も違う主人公をここまで自然に書けるのもまたすごくて
今から70歳のおばあちゃんの気持ちになりましょうって思っても無理だもんなって
想像できないことが多すぎるなって思います
この話のなかで主人公が成人向けの雑誌を買うところがあるんですけど
確かにコンビニにそういう雑誌が置かれていた時ってそれを見てる人って年齢層高くて
それをちょっと怖いと思ってしまっていた自分もいたんですけど
この主人公みたいな状態の人もいるし、そもそも欲って死ぬまでずっと纏わりつくものなのかと思えば納得もできるし
やっぱり知ることって心の寛容さに繋がりますよね
小説とはいえ物事を知ると根拠もなく心を狭くするようなことも減っていくかなと思いましたね