活字中毒者の禁断症状

引きこもりが読書感想文を提出するブログ

【読書感想文】おもろい以外いらんねん / 大前粟生

あらすじ

幼馴染の咲太と滝場は文化祭で漫才をするためにコンビ「アサガオ」を組むことにする。同様に滝場は転校生のユウキと「馬場リッチバルコニー」というコンビを組む。しかしネタ合わせをしていくなかで咲太は滝場との関係性の変容、「馬場リッチバルコニー」の空気との差異に違和感を抱き始める。一方の「馬場リッチバルコニー」は順調にネタ合わせをして、卒業後もお笑い芸人としてコンビで活動していき…という話

 

大前粟生さんの作品初めて読んだ

大前粟生さんの作品はタイトルが独特でとても惹かれるものが多いからずっと気になってたんですけど読みやすいし構成とか内容の突き詰め方とかしっかりしてる印象だった

正直純文学系の賞向きではない気がするけど

映像化には適してそうだから今後名前聞く機会増えるだろうなあ

 

では具体的に良かったところを2つほど紹介

まず1つ目は

売れてる芸人視点じゃないお笑い

お笑い芸人じゃない作者が書くお笑い芸人の小説の1番の魅力は売れていない芸人のネタ作りとコンビの雰囲気のリアルさだと思った

特にネタに関しては芸人本人だとここまで丸々ネタの内容書き起こすことって色んなしがらみ上難しいと思うけど

本作はネタ自体を何ヶ所かで文字起こししてるところがあって、それが絶妙にウケるのかどうか微妙なところな気がする

だからこそネタを通して自分たちのスキルの変化とか2人の関係性の変化とかが伝わってきて新鮮な読み心地だったな

 

2つ目は

人間関係としてのコンビ

友人としての関係であれば咲太と滝場のほうがユウキと滝場よりも良いだろうけどお笑い芸人としてのコンビの関係性になるとユウキと滝場の方が相性が良いっていうの不思議だよな

役割が与えられて1つの目標に対して何か行うってなると2人の関係性がはっきりしてる方が適してるんだろうな

特にお笑いコンビって多くの場合がボケっていう間違ったことを言う人とツッコミっていう正しいことを言う人に分かれるから

その関係性って多少の上下関係を許容できた方が良いもんな

お互いのことを基本的に認め合うような友人関係とかならちょっと難しいよなあ

 

他の作品も読まなきゃだ

【読書感想文】ミステリアスセッティング / 阿部和重

あらすじ

幼い頃から吟遊詩人になることを志しているシオリは、自身が歌った後歌を聴いた鳥たちが死んでしまった経験により歌うことができなくなる。それでも彼女は吟遊詩人を目指して生きていくが、高校時代の彼や世話をしていたバンドメンバーに騙され、挙げ句の果てには核爆弾を抱え込むことになり…という話

 

阿部和重さんの小説久しぶりになってしまった

どの作品でも印象が違って特に今作は正直最初の方あんまり面白味を感じられなかったのに読み終わってみたらとても美しくて心地よい読後感だったなあ

阿部和重さんの作品って共感できないのに面白いんだよな

これってなかなかすごいですよね

小説の面白さって共感する量によっても結構変わってくる気がしてたのにな

読者の立ち位置や経験によらずに面白いと感じられる小説ってすごいなあ

 

では具体的に良かったところを2つほど紹介

まず1つ目は

シオリの痛々しいほどの純真

この作品の主人公のシオリは色んな人に騙されて友情も愛情も金銭も失うのに人を自分から疑うことがない

読んでいて馬鹿だなって思う場面が何回もあるし

音痴なのに吟遊詩人を信じて疑わないのも意味わからないし

読んでて純真さが尊さというより愚鈍さとして捉えてしまうような描かれ方をしてる

でもだからこそ最終的な展開が腑に落ちるし

そこで初めて美しさを感じるような構成になってると思うのがすごい

 

2つ目は

善人と悪人の描き方

小説で描かれる善人に見えるけど悪人っていうキャラクターって

主人公は善人だと思ってるけど読者には実は悪人ですよって部分が明かされることが多いと思うんですけど

この話だと誰が善人で誰が悪人なのかっていうのが主人公のシオリと同じ解像度で描かれてるのがとても良い

悪そうだけど結局シオリにとって悪いことしてないよなって思ったり、その逆であんまり悪い描かれ方してないけどこいつ最低じゃねえかっていう人物がいたり

フィクションだけど人に対する感覚が現実的なのめっちゃ好きだなって思った

阿部和重さんの作品は基本そんな感じするけど

 

本全体の構成とかもとても良かったな

最初と最後のつながりとかね

いやー良かった

 

 

 

 

 

 

【読書感想文】CF/ 吉村萬壱

あらすじ

責任を無化する巨大企業CF。そこに勤める野村。両親が殺害された過去を持つ幸の薄い水商売の女の恵。CFの爆破を目論む森崎。野村の妻と大学の同級生の平野。彼らの人生はCFにより攪拌され、吸収されていく…という話

 

語り手みたいなのが特定の人物ではなくて多くの人の視点が変わる話で

あえていうなら主人公はCFそのものっていう感じ

吉村萬壱さんの作品って心地良い気持ち悪さを感じられるからよく読むんですけど

また新しい意味での気持ち悪さを感じたな

 

では具体的に良かったところを3つほど紹介

まず1つ目は、野村という男の存在

野村はこの話の面白さの核になってる気がする

野村視点での人間らしさと恵視点でのおどろおどろしさが共存してんのがいい

猟奇的な人物って描かない部分で魅力を引き出されるところがあることが多いと思うんですけど

人間的に書くことでキャラじゃなくてちゃんと人物として成り立ってる感じがするのが良いですね

 

2つ目は、CFの実態

CFの幹部の視点でも描かれてるんですけど

実態がほとんどなくても見せかけであるように見せるっていうのが

会社とか社会全体でも横行しまくってるのを身をもって感じることが多くなったから

この状態がとても納得できるし

見せかけだけのものを内側から見たら馬鹿みたいだけど外側から見たらそれが見せかけとは気づかない感じが絶妙に気持ち悪くて良いですよね

 

3つ目は爆発計画を企てる森崎と恵の関係性

愛情の形って色々あるんだろうけど

お互いの視点でお互いが惹かれてるところがわからないのって不思議だったな

CFという企業への復讐心への共感が2人の距離を近づけるのはわかるけど

それだけで人って惹かれ合うことができるのかな

人によって人と一緒にいたいと思う理由の出自って自分が思ってる以上に多様なのかなって思いましたね

自分自身が欠乏してるような気がしている時に誰かと一緒にいたい思いが先にあって

たまたま欠乏してる部分に何となく合う形の人がいたから一緒にいることにするっていうような

消極的な思いが人を繋ぐこともあるのかなあ

それを愛情って言って良いのかわからないけど

自分には考えられないような心情を考える良い機会だ

 

吉村萬壱さんの作品絶版になってるものが多いからあんまり読めてなかったんですけど

久しぶりに新しく買った本あるから読まねば

 

 

 

 

 

【読書感想文】あとは野となれ大和撫子 / 宮内悠介

直木賞候補作

 

アラル海だった国、アラルスタンで大統領のアリーが何者かによって銃殺された。議会の男たちはパニックに陥って、どこかへ逃げていき、残されたのは少女たちだった。アイシャを中心としてナツキ、ジャミラたちは自分たちで国家を興すために立ち上がる。彼女たちはAIMやウズベキスタンの組織との対立に立ち向かいながら、自分たちの政府の文化を主張するべく劇で国民にアピールする…という話

 

宮内悠介さんの話はグローバルで教養に富んでて登場人物が多いから全体を把握するのはめちゃくちゃ大変

だけど展開だったり面白さ自体だったりはアニメみたいにわかりやすい面白さだから読むのを楽しめるのは楽しめるんですよね

とはいえ中東のことをよく理解していないからどこからどこまでが真実なのかわからないけど

100%創作ってわけではなさそう

 

では具体的に良かったところを2つほど紹介

1つ目は国家と劇の重ね合わせ

この作品の一番の魅力は政治や国家を手の届く範囲で描いてるようなところだと思う

小さくて治安があまり良くない国における国家を元にしてるから政治家たちが逃げて少女たちが政治を行うという設定も比較的入ってきやすいし

実際にそれまで友人のような関係だった人が大統領になったり文化や外交を担当したりしてるから本格的なごっこ遊びみたいな様相を呈している

そしてこの主題でみんなで劇を成功させるというのが大きな目的の一つになっているから

国家の様子と劇の様子を照らし合わせて考えやすい

政治って役割を与えられてまっとうするものという点で劇と共通していて

悪く捉えれば政治を皮肉っていてたいしたものじゃないって言ってるみたいで

良く捉えれば政治を身近なものだと言ってる気がした

 

2つ目は民族の差異について

この話の舞台は中東の政府だけど主人公が日本人のナツキでそれ以外にも色んな国から逃れてやってきている登場人物たちがいて色んな民族で構成されてる

中東のあたりの民族や出身国によるタブーみたいなのが何回聞いても覚えられない身からすると

出身国とかの背景から立場が異なっていて

そこから話に展開が生まれる

っていう状態になってるのがまずすごいと思ってしまったな

宮内悠介さんは民族間の差異を勉強したのかな

他の作品でも海外が舞台になってるものが結構あるし教養の一部としてその感覚身につけてんの憧れるな

 

あんまり話の本質と関係なくなっちゃったけど

宮内悠介さんの作品読むと勉強しないとなって思わされるなあ

 

 

 

【読書感想文】ロックンロールミシン / 鈴木清剛

2000年代前半の三島由紀夫賞受賞作

 

あらすじ

サラリーマンを退職した賢司は古くからの友人である凌一と椿とカツオがやっているストロボラッシュという服のブランドを手伝うことになる。

マンションの一部屋で彼らの服の製作を手伝いながら、彼らがクラブで遊んだり、採算の取れない販売をしたりする狭間で少しずつズレを感じるようになり…という話

 

鈴木清剛さんの作品は初めて読んだ

文章が堅くなくて読みやすいけど

2000年代前半の空気感をちゃんと作品の中に落とし込んでいて

読み心地が良かったな

 

では具体的に良かったところを2つほど紹介

1つ目は

ミシンが作る服の数々

服のデザインをする話とかアパレル業界で働く人の話は読んだことある気がするけど服を実際に自分たちで作る人の話は読んだことなくて

ミシンで色々作れんの知ってびっくり

ジャケットとかもロックミシンってやつだと縫えるらしいし

ちゃんとしたブランドの服って今もミシンで作られたりしとるんかな

ミシンっていう近代的っぽいものを人類がそこまで発展させてきてたのってなんか良いよねって思う

今では服を量産するための機械ってミシンとは全く別の機械を工場で使ってると思うのだけど

今の発展した技術をミシンに惜しみなく注ぎ込んだらとんでもないものができたりするんじゃないかなって思った

 

2つ目は

価値観の違い

この作品でサラリーマンを退職した賢司とアパレルブランドを作った凌一たちが同じ時間を共有する日々を描いてるんですけど

最終的にやっぱり合わないところが出てくるんですね

 

それを読むと学歴とか職歴とかで差別はするべきじゃないけどやっぱり付き合う人って似たような境遇の人が多くなるから価値観ってどうしても変わってくるよなって思った

地元の同窓会に参加しても普段周りと話してるときと話題も価値観も何もかもが違って

違和感を抱くばかりで全く楽しくないみたいなあの感じを思い出してしまったな

誰も悪くないし切ないような気持ちになるけど

この気持ちってどう向き合うのが1番良いのかってなかなか難しいよなあ

なんかな完全に合わない人でしたって結論づけられれば楽なんだけどそれはそれで寂しいんだよね

難しいな

 

最終的に青春の終わりみたいな感じで

ハッピーエンドみたいな雰囲気で書かれてるんですけど

一定の距離感を保つことが決定して

近い距離では生きていけないことが明確化された気がしてちょっと寂しさを感じる最後だったな

 

話は読みやすくて良かったんですけどね

 

 

 

 

【読書感想文】ままならないから私とあなた/ 朝井リョウ

あらすじ

音楽を作る雪子の幼馴染の薫は発明家として高校時代から活躍し始める。しかし薫の効率的な考え方は私生活にも広がっており、人間性を重視する雪子との価値観のズレは広がっていき…という話

 

朝井リョウさんの小説あんまり好きじゃないところがあったんですけど読み方わかったら楽しめた

人間関係とか心理描写とかに着目するんじゃなくて思想に着目したら楽しめる

 

ではこの話を読んで考えたことを紹介

効率的であることと人を重んじること

そしてAIの究極性について

 

登場人物の2人が完全に重視するものが違う

人ってそんなにわかりやすく二分されることなんてないから現実的じゃないように感じてしまう部分はありつつも

最近これまでよりもちょっと人の役割が分かれているような部分もある気がする

AIと人間って結局得意なものがあるっていう部分では似てるのかもなって思った

 

まあそれは置いといて

登場人物の2人は効率的にAIを使って音楽を再現することとと人間らしく考えて曲を作ろうとすることでぶつかるんですけど

この2つの対立構造って難しいよなあ

確かに結果的に出来上がったものの完成度で言ったら

AI使って効率的にした方が良い時があるのもわかる

でもやっぱり自分は人と心に興味があるから人間が作ったものをその人の人生とか考え方を含めて楽しみたい気持ちが強いなあ

全部説明しようと思ったら説明できるのって不安になる

物事の有限性を強調してる気がして

だから何事にも逃げ場作っといてほしいよな

って思いますね

 

あと最近創作物をAIが代替する傾向があると思うんですけど

小説とか音楽とかにAIが使われるのってあんまりメリットない気がすんだよなあ

人工知能が人の色々を奪うってより

人が人工知能に影響受けて人工知能化してしまいそうっていう意味で

もちろん人類全体の考えが限局していくことで全く違う考えが生まれる可能性はあると思うけど

 

AIを研究することは色んなメリットがあるけど

人の心との相性はあまり良くないと思うので

使う方向性は慎重に考えていかなきゃだよな

今の潮流の先のシンギュラリティって人があまり考えずに人工知能使って自分たちの精神を苦しめていく流れのような気がするので

 

もう本関係ないな

本当の読書感想文か

 

 

【読書感想文】山ん中の獅見朋成雄 / 舞城王太郎

三島由紀夫賞受賞作

 

あらすじ

背中にたてがみの生えた中学生の獅見朋成雄は陸上でオリンピックを目指せるほどの身体能力の持ち主だったが、山に住むモヒ寛という書道家に弟子入りし、書の道を志す。ある日獅見朋成雄はモヒ寛が山で鈍器で殴られたような大怪我をしているところを見つけ、モヒ寛は入院することとなる。モヒ寛不在のなかモヒ寛の家に忍びこむ怪しい3人組がやってきて、獅見朋成雄は彼らを追い、現実離れした集落に辿り着き…という話

 

舞城王太郎さんの作品はファンタジーなんだけど読んでいくと象徴的なことが書かれているように感じて読み終わってからどういう意味だったのか考えさせられる時間が長くてとても良い

道徳・倫理的に非難されそうなこと書いてるのに騒がれないのって本の良さですよね

 

では具体的て良かったところを2つほど紹介

1つ目は、自分の変容と幅

獅見朋成雄は途中で自分の個性だと思ってたたてがみを失い、人としての道を外れる

そのことで自分に対して違和感を抱くんですけど

周りの態度も最終的な自分の行動の方向性も元のままに収束するような展開になっていて

それが紆余曲折ある人生のなかで自分が変容していく様子を表しているように思えた

自分らしさって自分で決めたり、自覚したりするものじゃなくて勝手に自分のなかに染みついてるもので

良くも悪くも自分でもがいても結局自分らしさの幅のなかに収まるのかなって思うな

 

2つ目は、人間性の逸脱

話の途中で殺人やカニバリズムが出てくるんですけど

それらの行為によって人間性を逸脱して

他者から見たら感覚が麻痺してる部分はすぐにわかるけど自分からしたら違和感はあってもどこが麻痺してるかはわからない感じが良かったな

獅見朋成雄の場合はモヒ寛っていう信頼できる大人が近くにいてその人と喋り続けられる関係性があったからある程度の人間性を保ち続けられているんかなって思うと

やっぱり信頼できる客観視の視点を与えてくれる人間関係って重要だよなって思いますね

 

舞城王太郎さんの作品半分くらい読んだんかな

長めの作品も読んでいきたいな