あらすじ
幼い頃から吟遊詩人になることを志しているシオリは、自身が歌った後歌を聴いた鳥たちが死んでしまった経験により歌うことができなくなる。それでも彼女は吟遊詩人を目指して生きていくが、高校時代の彼や世話をしていたバンドメンバーに騙され、挙げ句の果てには核爆弾を抱え込むことになり…という話
阿部和重さんの小説久しぶりになってしまった
どの作品でも印象が違って特に今作は正直最初の方あんまり面白味を感じられなかったのに読み終わってみたらとても美しくて心地よい読後感だったなあ
阿部和重さんの作品って共感できないのに面白いんだよな
これってなかなかすごいですよね
小説の面白さって共感する量によっても結構変わってくる気がしてたのにな
読者の立ち位置や経験によらずに面白いと感じられる小説ってすごいなあ
では具体的に良かったところを2つほど紹介
まず1つ目は
シオリの痛々しいほどの純真
この作品の主人公のシオリは色んな人に騙されて友情も愛情も金銭も失うのに人を自分から疑うことがない
読んでいて馬鹿だなって思う場面が何回もあるし
音痴なのに吟遊詩人を信じて疑わないのも意味わからないし
読んでて純真さが尊さというより愚鈍さとして捉えてしまうような描かれ方をしてる
でもだからこそ最終的な展開が腑に落ちるし
そこで初めて美しさを感じるような構成になってると思うのがすごい
2つ目は
善人と悪人の描き方
小説で描かれる善人に見えるけど悪人っていうキャラクターって
主人公は善人だと思ってるけど読者には実は悪人ですよって部分が明かされることが多いと思うんですけど
この話だと誰が善人で誰が悪人なのかっていうのが主人公のシオリと同じ解像度で描かれてるのがとても良い
悪そうだけど結局シオリにとって悪いことしてないよなって思ったり、その逆であんまり悪い描かれ方してないけどこいつ最低じゃねえかっていう人物がいたり
フィクションだけど人に対する感覚が現実的なのめっちゃ好きだなって思った
阿部和重さんの作品は基本そんな感じするけど
本全体の構成とかもとても良かったな
最初と最後のつながりとかね
いやー良かった