活字中毒者の禁断症状

引きこもりが読書感想文を提出するブログ

【読書感想文】コンジュジ / 木崎みつ子

芥川賞候補作

 

あらすじ

ある日精神が不安定な父親と2人暮らしだったせれなのもとにベラさんという女性がやってきて新しい母親となる。父とベラさんはともに働いて頑張っていたが、やがて仲は険悪となり、ベラさんは家を出ていく。ベラさんがいなくなると父親はせれなを性の対象として見るようになり、リアンに助けを求めるようになり…という話

 

久しぶりに書くとやっぱりあらすじ下手になるな

ってのはまあ良いとして

死んだロックスターと交流するっていうのと表紙の棺のイメージから勝手にファンタジックでRPGっぽい軽さを含んだ小説だと思ってたんですけど全然違いましたね

結構重めな小説でそれを重い感じ全開に書くわけではないのがとても良かったですね

 

では具体的に良かったところを2点ほど紹介

 

まず1つ目は何と言っても

メタ視点のない現実逃避

主人公のせれなが現実を見たくなくてはリアンに縋る様子が全体を通して描かれているんですけどその様子がせれな視点しか描かれていないことで本当にずっとリアンは存在しているように描かれていてせれなが周りからどう思われているとかっていう情報が一切書かれてないのがとても良い

 

現実逃避が切実なもので

周りからどう思われてるとか関係なくて

異質なものでもないことが主張されているから

本当に追い詰められてる人に寄り添ってくれているみたいで良かった

 

2つ目は現実の薄さ

1つ目と近いんですけど

せれなが現実でどういう生活してんのかが全然わからない

いつの間にか歳を取ってたし、いつの間にか仕事してた

人生が連続的でその間ずっとせれなが変わらない様子が描かれてんのがとても良い

そして父親がどうなったかはわからないまま

性被害の影響がずっと出てるのがリアルだよなって思いますね

 

いやー書き方で好きな小説久しぶりに出会った気がしますね

2作品目ないのかなー

 

 

 

【読書感想文】ホモサピエンスの瞬間 / 松波太郎

芥川賞候補作

 

あらすじ

出張マッサージ師である主人公が施術するのは介護施設に入っている五十山田さん。五十山田さんは戦争を経験しており、肩こりをほぐされ、身体の調子を整えられるなかで戦争の時の記憶を思い出し、苦しむ。西洋医学を駆使して五十山田さんの身体の不調に歯止めをかけようとするが、五十山田さんの身体の不調は止まることがなく…という話

 

松波太郎さんは何度か芥川賞にノミネートされている作家さんなんですけど絶版になってる本が多くて初めて読んだ

久しぶりにこれほど新鮮に思えた書き方でとても良くて面白かった

 

では具体的に良かったところを2つほど

まず1つ目は

とにかく独特な書き方

独特な書き方と言っても印象的

一方通行の会話文で相手がこちら側に問いかける間にこちらからの返答は書かれていないし

逆もまた然りとなっている

マッサージを施すという一方通行の行為に準えているような書き方がリアルに忠実で

誠実な書き方をしているような印象を受けてとても良かった

 

2つ目は

回想の想起と始まり

身体の痛みから同じ痛みを感じていた時のことを思い出す様子が書かれていて

話の始まりが軍隊での話で最初掴めないけどそれが患者の心理の話だとわかると

人生の連続性が描かれていることがわかって面白かった

人生の連続性を描いてるのが

身体全体の流れを良くしようとする西洋医学の身体全体を1つの連続した系だとみなす姿勢と重なってとても良かった

 

3つ目は

橋を渡るという表現

盧溝橋事件と身体の不調を準えて書いていて

橋を渡ることが後戻りできない状態になることを指している

盧溝橋事件の場合は人を殺害してしまったことで

身体の不調は首より上まで不調が伝播すること

一線を越えるって表現しそうなところをあえて橋を渡るっていうことで盧溝橋事件への悔恨の深さを表してるみたい

戦争が残す心の傷の深さを感じたな

 

松波太郎さんの初期の作品ほとんど絶版になってるっぽいから読むの難しいけど少しずつ手に入れられると良いな

 

 

 

【読書感想文】私の盲端/ 朝比奈秋

2023年の三島由紀夫賞受賞者である朝比奈秋さんのデビュー作

 

あらすじ

悪性腫瘍の摘出手術で肛門と腸を切断し、人工肛門をつけることになった女子大生の涼子。涼子はレストランでウェイターとしてバイトしていたが、人工肛門のことが気になってしまい、就活中だと言ってバイトを休む。ある時、彼女は同じく人工肛門である京平と出会い、親交を深めていき…という話

 

現役の医師で三島由紀夫賞を受賞された朝比奈秋さんの作品で

朝比奈秋さんの作品自体初めて読んだんですけど

独特?なのか心情が読み取れないところが結構あって読みやすくはなかった

『塩の道』は特によくわからなかったので感想とか言えない…

ただ疾患や身体の変化に向き合う様子はとても楽しめた

 

では具体的に良かったところを2つほど紹介

まず1つ目は

人工肛門というものにまつわるあれこれ

初めて人工肛門というものを知って

多目的トイレにある手洗い場と便座の間みたいなやつの使い方めっちゃ納得やった

それと自分の腸の一部を外側に出して一時的な排泄器官にするって嘘みたいな話だなって思った

人間の構造的に外の空気に直接腸を出していて良いもんだと思ってなかったので

具体的に想像はできないけどそういう人もいることを知ってるのと知らないので大きく差ができそうな場ってありそうですね

読書の1番の醍醐味が自分の他者への共感の総量を増やすことができると思うんですけど

その醍醐味を味わえる作品だったなって思います

 

2つ目は

欲求の権化みたいな職場

主人公が働いてる職場が本当に品を感じられなくて欲望のままに動いてる人間たちが多いのが

色んな記憶呼び起こしてくれて

心地よく不快だった

女子高生のバイトに対する態度もペースメーカーの入った人に対する態度も理性を感じなくて

同窓会思い出したわ

世界全体においてこういう場ってすごく多いと思うけど今あまり縁のない場だから

本を通してその感覚を新鮮に感じられるのはなんか良かったな

感覚を保存してくれているような気がしますね

 

あまりストレートな楽しみ方はしてないと思うけどこの人の切り口の面白さはわかった気がする

『植物少女』気になる

 

 

 

 

 

 

【読書感想文】体育館の殺人/ 青崎有吾

引くほど前に買ったやつ

久しぶりに読んだミステリー

 

あらすじ

放課後、高校の体育館のステージ上で何者かによって放送部部長の朝島が殺害されていた。犯行時間は10分程度。しかし上手と下手の入り口には鍵がかかっており、密室状態であった。卓球部の袴田柚乃は卓球部部長である佐川にかけられた疑いを晴らすべく、二年で1番の学力を誇る裏染に助けを借りに行き…という話

 

純粋なミステリーとかあんまり好きじゃないので読まないんですけど

これは装丁が可愛くて5年前とかに買ったんですよね

でもやっぱりミステリー読む気にならなくて久しぶりに読んだ

 

読者に迎合されるために作られてる感があまり好きじゃないんですけど

普段よく読んでる純文学とかと頭を切り替えて読めば楽しめるよねって思った

ただミステリー読まなすぎてこの作品はこのトリックがすごくてこの展開がめずらしくてとかが全然わからない

だから自分が良かったって思ったことしかわからん

 

では良かったところを2つほど紹介

1つ目は高校の体育館が舞台であるところ

高校の体育館っていう多くの人がイメージしやすいところが舞台になっていて

部活や生徒会など放課後の様子の状況も踏まえながらの推理だから理解しやすい

高校生の文化ならではの物事も多く出てきてあんまりミステリーで高校自体が舞台のものに触れたことなかったから新鮮に感じられて面白かった

 

2つ目は最後の展開

どうしてもミステリーを避けてしまう理由として動機と行動の解離に違和感を感じることがあるからっていうのがあるんですよね

心理的な流れを考えた時に殺害の方法や計画の立て方に動機が直結しなさそうなのを見ると冷めてしまって

本作もそんなことで殺すまで行くかなって感じだったんですけど

最後の最後の逆転でそこの辺りが腑に落ちたし

それによって面白くなるし

皮肉的な要素も足されるし

とても良かった

 

改めてミステリーを書くのって大変だよなって思う

小説を書く能力に加えて矛盾のないどこにもないトリックを考えていかなきゃいけないのって大変すぎるもんな

これだけ新しさを感じられるのって想像以上にすごいことなんだろうな

たまにはミステリー読もうかな

 

【読書感想文】くるまの娘/ 宇佐見りん

野間新人文芸賞織田作之助賞候補作

 

あらすじ

女子高校生のかんこは学校にいても授業には出ずにふらふらとして日々を送っていた。ある日、祖母の訃報が届き、父と母と3人で祖母の家へ向かい、車中泊をすることを決める。常軌は逸してないものの時に暴力的で残虐になる父と酒を飲むとヒステリックになる母との車旅のなかで、弟と兄が出て行った家庭の内情が明らかになっていく…という話

 

ひっさしぶりに宇佐見りんさんの小説読んだけどやっぱり上手だなって思いますね

些細な心情を描き出す筆致と地の文の豊かな表現力で読んでて飽きない

それに合わせてこの絶妙に重いテーマがとても良いですね

好きだわ

 

では具体的に良かったところを3つほど紹介

まず1つ目は

毒親の描き方

ヒステリックな母親と暴力的なところがある父親をわかりやすく書きすぎてないのがとても良い

2人とも悪人なわけでもないし、ちゃんとした家庭を築こうとして結婚したっていう背景も想像できるのに兄弟が家から出て行っているって事実によって確かに欠けている部分があることははっきりさせているバランス感がとても好きだった

 

2つ目は

車中泊ならではの出来事の数々

この作品のなかのターニングポイントだったり、両親の衝突だったりっていうのが車中泊をするこの登場人物たちじゃないと起こり得ない出来事で構成されているっていうのがすごく良い

車中泊するって仲良い家族の感じがあるけど

風呂トイレに気軽に行けない

歯磨きがいつも通りにはできない

ゆっくり寝られない

が揃ってるストレスのオンパレードだから

仲良い家族が手を出すと痛い目見る要素揃ってて

本当に仲良くないとその実態が曝け出されてしまうものだと思うから

このテーマにはとても合ったものだよなって思う

すごい

 

3つ目は

主人公の立ち場

兄と弟は出て行って1人取り残された主人公だけど被害者って感じはなくて

劣悪な家庭環境形成する一員になってる

って自覚して責任感を抱いてるのが苦くて

人間関係は相互作用で成立してるし

でも高校生とかだと親子の関係って切るに切れないところはあるし

って考えてしまったな

主人公のかんこが家を出てしまったら家庭崩壊が決定的になってしまうからそれを防ごうとしてるのを感じて苦しくなるな

 

宇佐見りんさんの小説は言語化しづらい絶望を背景とかを踏まえつつ書いてくれるからとても良い

新作待ちたい

【読書感想文】アメリカ最後の実験/ 宮内悠介

あらすじ

楽家の父俊一を探すためにアメリカにやってきた脩は、マフィアの1人息子のザカリーと自身の音楽センスに引け目を感じるマッシモの2人とともに父親も受験したグレッグ音楽院の試験を受ける。脩は父親が一時期活躍をしていたことを知ると父と一緒にいた元売春婦のリューイに近づき、父が使っていたパンドラという楽器に出会う。そんななか試験会場である殺人事件が起きて…という話

 

宮内悠介さんの作品は

純文学系のものを主に読んできていて

本作みたいな大衆文学のど真ん中って感じの作品は初めて読んだ

だから特に記憶に残ってる『カブールの園』と文体から何から違いすぎて衝撃だった

人が書くものってここまで変えることができるのかって

しかも宮内悠介さんのすごさってだんだん変わっていったわけじゃなくて

純文学っぽいものと大衆文学っぽいものを同時期に書いてたらするからより意味わからん

脳どうなってんだろ

 

では本作の良かったところを2つほど紹介

1つ目は、音楽の可能性

音楽詳しくないから全然わからなくて置いてかれたんですけど

パンドラという楽器が音を押されたキーの情報を受け取ってそれの何かを調整して出力する?

というもので

それをきっかけに父がブレイクしたってなってるんですけど

その辺りのことが実際にありうるのかわからないけど

音の伸びとかピッチとか?っていうのをリアルタイムで調整するだけで大きく印象を変えることができるの面白いって思った

そしてその発想を実装した楽器を考えてパンドラという名前で本作の鍵にするっていう覚悟もすごい

 

2つ目は、連続殺人と音楽のない世界

音楽をもたない人たちと荒涼とした世界の照らし合わせをして

そこに連続殺人を絡めて

音楽のない世界の絶望感を表現する表現力がすごい

リューイの荒んでいた心のバックグラウンドも回収して最後の実験に臨む様子が映像としてすごく残る描き方をしていると思う

 

この作品の中で主軸となるのが音楽の難しさで

色んな人が音楽に挫折したり、楽しめなくなったり

それでも音楽に携わり続けようとする姿勢も良かった

最初めっちゃHUNTER×HUNTERやん

とは思ったけど面白かった

とても

【読書感想文】真ん中の子どもたち/ 温又柔

芥川賞候補作

 

あらすじ

台湾人の母と日本人の父をもつ琴子、台湾人の父と日本人の母をもつ玲玲、両親が中国人であるが日本育ちの龍舜哉。3人は中国語を勉強するために中国に留学し出会った。それぞれの立場で中国という文化と中国語と向き合いながら彼らは青春のひと時を共有する…という話

 

中国・台湾出身の作家さんだと李琴峰さんしか読んでなかったから

堅い雰囲気で読みづらさあるかと思ってたけど

めちゃくちゃ読みやすかった

李琴峰さんは李琴峰さんでいいんですけどね

日本語が母国語でない方が書く小説というイメージが固定化されないっていうのは良かった

 

では具体的に2つほど良かったところを紹介

1つ目は父国語という考え方

この話に出てくる主な登場人物たちはそれぞれの立場で中国語に向き合う

各々が母国語ではないけど縁のある言語に立ち向かう様子が描かれているのが魅力

特に主人公は父親の言語である日本語しか知らなかったから母国語という概念を知らない感覚にあって

父国語である日本語と母国語である中国語を知りたいって思っているっていうのが

なかなかそういう立場にないと想像できない感覚だからその感覚をこの作品を通して擬似体験できるのは面白かった

 

2つ目は青春の描き方

この話の中の琴子、玲玲、舜哉の言語や人種とかと無関係に築かれる人間関係って真っ直ぐだけどちょっと入り組んでしまうことにはなるんですけど

それが大きいこととして書かれてないのがなんか良かったかなって思います

 

簡単に言うと恋愛の三角関係になるということで

それが将来の関係に全く影響を与えていない様子も描かれているんですけど

もともと人間関係をめっちゃ気にする立場からしたらこういう昔のことをあんな過去もあったねって笑い合う感じなの好きじゃなかったんですよね

でも

若さ+わずかな逸脱=青春

とするならこの辺りの描写はまさしく青春の芯を捉えてると思うし

最近ちょっと過去の誤ちを自分と関係ないことのように思えてしまう感覚も分かってきたから

三角関係に対する書き方のクールさが良いのかなって思った

自分の成長を感じたな

 

最後にこの作品の

台湾は中国と日本のどちらでもないのではなくてどちらでもあるという一貫した考え方も好きだったと言う感想を添えて終わり