川上未映子さんの短編集
ここでは『彼女と彼女の記憶について』と『ウィステリアと三人の女たち』について
『彼女と彼女の記憶について』
上京して女優になった主人公は同窓会に参加する。彼女は同窓会で元同級生から声を掛けられながら、周りに対して優越感を抱く。しかしトイレである同級生の餓死について聞かされ…という話
『ウィステリアと三人の女たち』
近所の家の取り壊し工事が行われていた。そこには老婆が住んでいたはずだったが、もう彼女を見ることはなくなっていた。ある日、主人公がその家を見に行った時、空き家に忍び込むことを趣味としている女と会う。主人公は後日女と同じように取り壊し中の家に忍び込んである部屋に入り…という話
こんな構造の感想文書いといてなんだけど
やっぱり川上未映子さんの作品の良さってあらすじには書ききれんわ
物語では枝葉の情報になるようなところの書き方と物語の流れ方がとても綺麗だから
テーマが何だろうと川上未映子さんらしさが全く失われない
日本のいわゆる純文学の良さを海外に伝えるには最適な作家さんだ
では具体的に良かったところを2点ほど紹介
1つ目は『彼女と彼女の記憶について』の
餓死した同級生への思い
現代の日本で餓死することの奇怪さって色んな意味を孕んでいる気がする
誰にも縋ることができない孤独とか生命を手放す希死念慮っぽさとか性格の薄暗さとか
そういうものを感じさせるのが小さい頃に下に見てた子っていうことで
主人公は同級生たちへのマウントをとる矮小さとかいじめのようなことをしていた後ろめたさとかを感じているような流れになっている
主人公の感情についてはあまり明言されていないけど
文章の流れと行動の変化で移り変わる心情の変化を書き表わしていてすごい
2つ目は『ウィステリアと三人の女たち』の
一つの部屋に宿る人の痕跡
この作品の主人公は夜に近所の老婆の家に忍び込むことで老婆の体験が自身の中に入り込んできてそのまま老婆の体験を追体験するような事態に陥る
この構成だけでもとても面白いんですけど
この作品の更なる魅力っていうのが
老婆が異国の女性に叶わぬ恋をしていることと
主人公が不妊治療を考えているところで
この2人に共通してることって
後世に残る者を持つことができないっていうことで
作品全体を通して子どもを生まなくても自身の痕跡は残るっていうことを訴えかけている気がして
そういう意味ではとてもポジティブで優しい作品である気がしてすごく良かった
目に見えないものも後世に受け継ぐことはできる
っていう美しさ感じたな
川上未映子さんの小説がどんどん世界で評価されているのがとても納得できる
唯一無二の作家さんですね