三島由紀夫賞候補作
『熊の場所』、『バット男』、『ピコーン!』からなる短編集
『熊の場所』
小学5年生の主人公がクラスメイトのカバンに当たると中から切断された猫の尻尾が出てきた。彼はクラスメイトの動向を探るべく、クラスメイトと放課後に遊ぶようになるがクラスメイトはサッカーが上手い普通の男の子ように見えた。しかしそんななかでも彼の家に置いてある缶の中では猫の尻尾が増え続ける。そんなある日近くの学校で子どもがいなくなるという事件が起きて…という話
『ピコーン!』
主人公のわたしはバイクメンという暴走族に属していた哲也と付き合っている。わたしは高校卒業認定試験を受けて就職し、哲也と一緒に普通の社会に出ることを志すが、そんな矢先に哲也は殺される。哲也は神社で酷い死に方をしていて、主人公はその犯人を見つけ出し…という話
舞城王太郎さんの作品は少年犯罪に着目してるものが時々あって『熊の場所』はその代表作みたいな感じですかね
淡々として思ったこと全部書いてるみたいな文体だし、時間があっという間に去ったり、簡単に人が亡くなったりするのに言葉では捉えられない感覚とか心情を大量な文で表現しようとする姿勢に惹かれてしまう
では具体的に良かったところを2つほど紹介
まず1つ目は、
猟奇性を孕んだ少年の描写
『熊の場所』で登場する少年が今まで読んだ舞城王太郎さんの作品の登場人物のなかで1番怖くて哀しい存在である気がした
少年の生命の喪失に対する関心の強さっていうものに論理とか人間性がほとんど感じられなくて
主人公と仲良くなることとか一緒に遊ぶこととその猟奇的な部分が完全に分断されているような本能的に生き物を殺しているようなところがとにかく怖かった
少年犯罪につながるような出来事を書くときってその背景とか心の状態に着目されるけど
全部が全部説明のつくことではないっていう当たり前のことを改めて考えさせられた
2つ目は、
愛情の本質
『ピコーン!』は初期の舞城王太郎さん作品っぽい空気感ですごく良かった
わたしと哲也を結びつける愛情がわかりやすく書かれているのが1000本ノック(としか書かんけど)っていう普通に全く品がない行為でそれを軸に話が進むんだけど
わたしが哲也のことを思って技を磨いたり、2人でまともになろうとするために勉強したり、哲也を殺した犯人を必死に見つけ出したりする健気な愛情が本当の人間愛の根本みたいでとてもよかった
時間が経つにつれて記憶のなかの存在自体薄くなっていくみたいな正直さもちゃんと書かれてるからこそ
わたしの誠実さもちゃんと伝わってきてすごく好き
『熊の場所』に関しては書かなかったけど
主題として
恐怖を根絶するにはその恐怖を感じた原因まで直接会いに行かなければならない
っていうメッセージも込められていて
舞城王太郎さんの作品の面白さが込められてる作品だなって思いますね
良かった