伊藤計劃さんのデビュー作
あらすじ
国の暗殺部隊として働く主人公クラヴィスは、各地で虐殺の引き金を引いているジョン・ポールを追う。その過程で彼の愛人であるルツィアに近づくが、彼女に惹かれてしまう。しかしルツィアに近づいていることはすでにバレていて、仲間たちが殺害されていき、最終的にはジョン・ポールに迫っていくが…という話
とても面白かった
SFの背景が細かく書かれているのがまず良くて
話の随所随所で教養的な知識が組み込まれているのがまた楽しめる
では良かったところを3つほど紹介
まず1つ目は、虐殺の文法
各地で虐殺を引き起こしている方法が
大量殺戮が行われる直前の人々の話を解析することで必ずある特定の言葉や文法が多くなることを言語学的に突き止めて
それを意図的に流すことによって虐殺を起こしているというのが興味深かった
物事には必ず周期性があって
人工知能はその周期を捉えることが得意ということを使って人々を操る
っていう発想が面白い
最近考えてたことだと
人の怒りは怒る人と怒られる人がそれぞれ発する空気感で生まれるような気がしていたから
それをもし言語化とか物質化できたら人の感情は作れるっていうことになるのかなって思うんですけど
それと同時にそういうことに騙されない人間になりたいなって思いますね
そして情報の流し方も波及力のある場所から流すのも機械学習っぽい
2つ目はクラヴィスの母への罪悪感
クラヴィスは命令に従って女性や子どもを自らの手で殺害しているが
そこに対する罪悪感は調整させられていることもあってあまり感じていないのに
自らが積極的に手を加えたわけではない母の死に関しては罪悪感を抱いている
このことから人の罪悪感は物事とともに人間関係をもとに相対的に決まるものだということがわかる
人の自分勝手さがクラヴィスに共感できる形で書かれているのが良かった
3つ目はジョン・ポールの人間性
ジョン・ポールが虐殺を起こすのは、妻と子の死が原因で
虐殺の動機も非人道的なものではないことがわかる
そしてその行動はクラヴィス自身にも重なるところがある
っていう皮肉的な展開がとても良かったし面白かった
人間の繋がり合いを包括的に理解すると
意外な人物がその世界の流れに大きな影響を与えているっていうのもまた面白い考え方ですね
伊藤計劃さんの小説は何度も読みたくなるし
頭を使えば使うほど面白くなる
もっと色々読みたい作家さんだったな