活字中毒者の禁断症状

引きこもりが読書感想文を提出するブログ

【読書感想文】親愛なるあなたへ/ カンザキイオリ

アーティストのカンザキイオリさんの2作目の小説

 

あらすじ

高校生になる小倉雪は義母と義姉と3人家族だったが、義母を事故で失う。義姉と二人暮らしとなった雪はハルが書いた小説に励まされながら、軽音部に所属して高校生活を送り、ハルに向けた曲を書いて文化祭で発表する。

一方でハルのペンネームで小説を書く春樹は母との二人暮らしで雪と同じ高校に通っている。図書室でハルの小説を読もうとしていた穂花に会い、穂花のことが気になり始める。そして春樹は穂花と結城の3人で高校生活を送る。

そして、雪と春樹は二人が文化祭で出会い…という話

 

賞とかにノミネートされてる小説ではなくて

話題になってるとかも耳にしてなかったから

想定よりもはるかに面白かった

『あの夏が飽和する』も好きだったけど個人的にはこっちの方が好みだったかも

途中まで青春ものっぽいやつかと思ってたら

途中から一気に変わるのが良かった

 

では良かったところを3つほど

 

1つ目は

雪と春樹のすれ違いと春樹の過去

この話の一番の魅力は文化祭でハルへの曲を歌った雪に対してとった春樹の行動と

そこから明らかにされていく春樹の過去についてだと思うんですけど

話のテーマが『爆弾』から『偶像』へと切り替わるような雰囲気の変わり方が凄い

それまでわずかに引っかかっていたところが回収されながら

文化祭の行動に至るまでの春樹の過去の描き方が一つひとつ丁寧で

春樹の心情が読み手にひしひしと伝わってくる

 

2つ目は

雪の家族の背景

雪の家族は前半は美しく描かれているのに

後半になるにつれてその内実の暗さが明らかにされていく

優しい人が抱えた内側の葛藤や苦しさを書くと同時に人の弱さも書いてあって

生きていくことで使うエネルギーの大きさとか過去の誘引力の大きさとか色んなことを考えさせられた

登場人物一人ひとりに対する人間的な立体感が丁寧なカンザキイオリさんの描き方がすごくいい

 

3つ目は

物語の終わり方

どうやってもハッピーエンドにはならない物語の進み方で

この終わり方もハッピーエンドとは言えないのかもしれないけど

それでもとても美しくて

『爆弾』を小説化したというコンセプトにふさわしい綺麗な終わり方だった

 

『爆弾』や『偶像』の歌詞の内容やミュージックビデオで出てくる場面に準えたところも多く出てきて

話の筋だけでも面白くて

すごく良い空間を体験した

次の小説が出るのかはまだわからないけどあれば絶対に読みたい

あともっと評価されてほしい