「Schoolgirl」
あらすじ
社会派YouTuberとして活動する中学2年生の娘は母のことを小説に侵されたかわいそうな人だと思っているが、娘の最新動画は太宰治の「女生徒」についてだった。母は娘の動画を見ながら娘のことを考える一日を過ごすという話
「悪い音楽」
あらすじ
中学の音楽教師をしている主人公は頭の中でラップのリリックを考えながら過ごしているが、中学生の喧嘩を目撃したり、ルームメイトのサエと衝突したりする。そんななかクラスの生徒の横田さんに合唱コンクールの指導をクビにされて…という話
デビューこそ去年なんですけど
これまで書いてきた物語の量がすさまじいと思う気がする
そうじゃないなら才能がすごい
っていうのは話の作り方と人物の描き方と文体の変え方の技術がとても高いし
100ページ弱くらいで読み応えのある物語を書きなれている感じがしますね
では具体的に良かったところを2つほど紹介
まず1つ目は小説というものの価値
これは「Schoolgirl」の方で
社会的で利便性の高い知識に対して
小説というものは人間に向き合うためのもので
誰かについて考えるために必要なものだと考え方が良かった
娘は小説の否定派でちょっとヒリヒリする感じなんですけどその娘が母親と向き合うきっかけになったのが小説っていう構成は納得できるし
改めて文学の良さを知った気がしますね
2つ目は良い音楽と悪い音楽
これは「悪い音楽」の方なんですけど
横田さんに主人公が音楽は音を楽しむものなのに
先生は音楽をわかってないと言われるところで
主人公は音楽と人間性を区別して考えていて単純に音楽としての良さを重視しているのに対して
中学生の横田さんは主観的なものも含めて音楽として捉えている側面があって
その結果できあがったものを悪い音楽と考えているのが面白かった
どちらかというと冷静に音楽を捉えている主人公の方が正しい気はするんですけどね
大衆的な音楽と伝統的な音楽をわかりやすく比較しているのが良いですね
3つ目は人物の特性の書き方
これがとても面白いポイントで
「Schoolgirl」は母親視点の文を小説の影響を受けたような表現をしているのに対して
「悪い音楽」は主人公視点の文でラップを刻むところがいくつかあって
こういう固有の特性を文体に組み込むのが好き
結構大変だと思うんですけど
主人公を1人の人間として浮き上がらせていて
この書き方をする限りまだまだ九段理江さんの小説の味わい深さは消えないだろうなって思いますね
これからの作品も楽しみになりますね
末永く活躍してほしい作家さんですね