芥川賞候補作
あらすじ
姉の香緒里と弟の友徳は夜寝る時2人で話をする。友徳は塩中さんと付き合いながら三輪あかりちゃんという女の子の相談に乗っている。あかりちゃんは色んな男の子と親しい間柄を築いていて、ある時友徳はあかりちゃんのいざこざに巻き込まれる。香緒里は友徳を助けるために動いて…という話
あらすじはこれで良いのかなって悩むんですけど
この小説の魅力は他に色々ありますね
この小説を読んでやっと舞城王太郎さんの小説に惹かれる理由がわかった気がしますね
では具体的に良かったところを3つほど紹介
1つ目は父親の愛人と香緒里の関係
香緒里と友徳の父親は不倫して家を出ている状態なんですけど
祭りで父親と愛人の花さんが歩いているところに出くわして以来花さんと仲良くなるんですね
それが父親の人間像を多面的に見るきっかけになっているみたいで
香緒里が父親と向き合うようになって成長していくのがとても良い
愛人というと良いように書かれないものだと思うんですけど愛人を主人公の成長を促す存在として書いているのは面白いですね
2つ目は小説のなかの文章
「正論ってのはあくまでも自分っていう潜水艦の周囲の状況を確かめるために発信するソナーなんだよ。自分が正しいと感じる、信じる意見をポーンと打って、返ってくる反響で地形を調べるのだ。ソナーで道が拓けるわけじゃない。」
っていう正論に対する考え方はとてもしっくりきた
あんまり小説でこの文が好きみたいなのはないんですけどこの部分はとても強く残りましたね
正論は人を批判するためじゃなくて自分の位置を確認するために使うもの
っていうのがSNSとかに対するメッセージでもあるのかなって思って
こういう色んな考え方を読むことができるのは良いなって思いますね
3つ目は香緒里の精神状態と脳天気っぽさ
これが1番の魅力だと思うんですけど
主人公の香緒里は天真爛漫っていう風に描かれているのにカウンセリングを受けていたり
暗い感じの夢を見ていたり
っていう精神的に不安定なところがあるんですね
でも文章に何で傷ついているかとかどれだけネガティブなのかみたいなことはほとんど書かれていなくて
この違和感がこの小説の本質なんじゃないかと思いますね
心を表に出来ないけれど傷ついている人間を描いているんじゃないかなって
そう考えるとタイトルにも納得できて
「ビッチマグネット」って友徳のことなんですけど話自体は香緒里視点で書かれているしビッチを引き寄せる友徳の話が全面に出ているわけではなくて
香緒里が自らのことは差し置いて友徳のことを心配している心理をタイトルに込めているならしっくりくるんですよね
大事なところは書かれていないっていうのがとても魅力的なんじゃないかと思います
舞城王太郎さんの作品がより一層好きになる作品だった
良かった