芥川賞受賞作
あらすじ
第二次世界大戦で日本兵として働いた朝鮮人のソパンは、在日朝鮮人として不法滞在者の集う集落で暮らしている。ある日新聞に戦争の補償を求める裁判が行われるという記事を見つけ、これまでの人生を振り返りながら、野球賭博をしたり、佐伯さんという女性と関係を深めたりしていく…という話
この本には、『蔭の棲みか』、『おっぱい』、『舞台役者の孤独』という3作品が含まれていていずれも在日朝鮮人関連の話なんですけど
どれもとても面白かった
玄月さん自体は最近あまり作品を出版されてないみたいなんですけどこの人にしか書けない要素が多いような気がしましたね
では、面白かったところを3つほど紹介
まず1つ目は軽口と冗談の書き方
本作では親しい仲間での内輪ノリみたいなことが書かれているところがいくつかありまして
そういう軽い冗談みたいなやり取りって読んでいる側が入っていきにくいのでちょっと読みにくい場合がまあまああると思うんですけど
本作で書かれている軽口とか冗談がちゃんと面白い
めちゃくちゃ爆笑ではないけどちょっと笑えるのがなかなか難しいと思うのにそれがよく書かれてますね
2つ目はソパンの戦争における立場と人生について
ソパン自体は日本兵として出兵していたわけじゃなくて戦争に使う荷物の運搬しかしてないという微妙な立場ではあるけど腕を失っていて
その結果働かなくても生き続けることができた人生を歩んでいるという人物だから
どこかいつも影があるというか、後ろめたさを感じているというところがあるっていう感覚が
明文化されてはいないけど滲み出ている感じがとても良かった
3つ目は最後の展開
それまでのソパンは行動があまり描かれていないというか、違和感を覚えることがあっても動けないことが多いソパンだったんですけど
最後の最後でソパンの魂と感情とっていうのが全部出る行動が描かれていて
それまでのフリが長かった分その生き生きとした感情を感じましたね
良かった
3作品ともそれぞれ良くて
一冊の本でめちゃくちゃ楽しめた
玄月さんの作品はそこまで多くないんですけどもっと必要とされるべき筆者だという気がしましたね