2021年下半期芥川賞受賞作
あらすじ
元自衛官のサクマはメッセンジャーという自転車の運送のアルバイトで食いつなぎながら、コンビニのバイト先で出会った円佳と同棲をしている。ある日、車に轢かれそうになって事故を起こし、自転車を押して街を詳細に眺めていくことをきっかけに街は表面的なところしか見えないブラックボックスになっていると気づき…という話
この本全体で160ページちょっとなのに対して最初の80ページちょっとが1日の出来事で
1日の描写が詳しすぎてちょっと退屈な印象を受けて
最近の芥川賞ではめずらしいタイプのやつかなって思ってたら
そこからの展開が怒涛
最初の1日の描写が長くて退屈な印象を与えるようにしてるのも筆者の狙いなんだろうなって思います
終わってみればとても面白かった
この本の面白い点を3つほど
1つ目はなんと言ってもこの構成力
あまり特徴的ではない平凡な1日を長めに書いて平凡さを強調していることで後半でその平凡さから遠ざかったときにその平凡な日々の貴重さみたいなのを強く感じさせられる
後半の展開はテンポ良く進んで色々なことが起きるから
前半と後半ではっきり分かれてるっていうのが今まであんまり触れたことのない構成で良かった
2つ目はブラックボックスが象徴しているものについてで
街の風景とか
自分の心のなかの衝動とか
わかっているつもりで表面的なものしかわかっていないものについて焦点を当てて描いていて
それを受けてのタイトルのブラックボックスっていう構成がとても良い
こういうタイトルの付け方めっちゃ好み
3つ目は最後の希望についてで
割と後半で絶望的な状況なんですけど
それでも自分の暴力性の暴発が良い方向に偶然ことを運んでくれたおかげで
最後にサクマに少し希望が見えているのが
読後感がスッキリするからとても好き
地続きのハッピーエンドは良いですね
読み初めはあんまりかなって思ってたものでここまで面白いと思えたのは初めて
めちゃくちゃ良かった