芥川賞受賞者の初長編作品
あらすじ
東長崎駅を降りて徒歩数分行ったところにあるかたばみ荘。そこでは住人が出て行くときには次の住人を自分で探さなければならない。ある時には住人が失踪したり、隣の部屋の住人がヤクザになったり、そうしてその部屋は次の住人に受け継がれていっていた…という話
本文全体が相手に語っている口調でその語り手が次々と変わっていくように書かれていて
その本文の構成とかたばみ荘のルールが重なり合っていてとても綺麗
滝口悠生さんの作品は時間の流れをとても立体感のある形で描いているのにそこに人が埋もれるんじゃなくて時代の構成要素として生き生きした個人が組み込まれているような感覚になる
面白かったところを2つほど
まず1つ目は語り方とその回収
この本は章が始まる時に語り手が自ら名乗るんですけど
それがその時々で部屋の住人が変わるようにある空間における主人公みたいなのが変わっていく様子を強調しているのかと思ったら
それだけではないっていうのが最後のあたりでわかって
伏線回収みたいな要素を一切期待していなかったがためにやられた感があった
そして腑に落ちた
2つ目は片川三郎の失踪についてで
片川三郎という人間の周りの人物が主人公となって語って
それに伴って周りの人間の距離が縮まっているのが人間関係の不思議さを描いていて
作品の立体感みたいなものがとても強い
1人の人間を描くのにその人の視点を描くのではなくて周りの複数の人間を描くのが面白い
ちょっと『桐島、部活やめるってよ』っぽいところを感じますね
滝口悠生さんの作品は読んでいると温かい人間関係に触れたような感じがして
心があったまる
それは綺麗事が描かれているのではなくて徹底的に人間に寄り添っているっていう意味で
絶対良い人やと思う