「不意の償い」、「蛹」、「切れた鎖」の3作が収録された一冊
「不意の償い」
あらすじ
初めて妻と性行為を行った日、近所火事で両親が死んだ。無理やり妻に性行為を強制した日、妻は子どもを孕った。主人公は自らの性行為に後悔し、自責の念に駆られ、妻の出産が近づくにつれて、さまざまな幻覚を見て…という話
「蛹」
あらすじ
暴力的な雄の子どもとして生まれた雄のカブトムシは、幼虫の時一度土から出て自らの母親の死体を見る。その後土に潜って暮らしていくうちに周りの幼虫たちは成虫まで成長し、地上に旅立つ。主人公のカブトムシは土から顔を出して外の様子を見守るが、動くことができないことに気がつき…という話
「切れた鎖」
下関で力を持つ一家の娘である梅代の夫の重徳は家の裏の教会の女と浮気をしていた。そして重徳は家から出て行く。時が経ち、娘の美佐子は父の血を受け継いでか、色んな男と遊ぶようになる。やがて生まれた美佐絵を梅代の家に置いたまま美佐子は帰らなくなって…という話
どれも面白かったんですけど「切れた鎖」はちょっと読みにくかったのと意味を理解しようとすると難しくて
教会の鎖をつけた男という存在がキーなのにあらすじに組み込めなかったですし
もっとしっかり読み込まないとなって感じでしたね
一方で「不意の償い」と「蛹」はわかりやすくて楽しめた
では良かったところを2つほど紹介
まず1つ目は性行為への後ろめたさと妻の妊娠
これは「不意の償い」ですね
伊坂幸太郎さんの「重力ピエロ」など、強姦によって生まれた子どもについて書かれた小説は読んだことがあるんですけど
ちゃんと夫婦の子どもなのに夫に後ろめたさがあるっていうのが新鮮で
でも確かにそういうこともありえるだろうし
自責の念に駆られている主人公の幻覚が血や死を連想させるものや動物ばかりで
それに苦しむ様子を描いているのが
ファンタジーっぽくもあるけど
主人公の繊細な心の動きを鮮明に描いていてよかった
2つ目は蛹と引きこもりの照らし合わせ
これは「蛹」の話で
父が暴力的な性格で母はすぐに亡くなったのを知っていてっていう状況が劣悪な家庭環境に準えていて
主人公が蛹のまま成長しないのが引きこもりに準えている感じがすごい良い
土の中でも色んな生物と会えているのがネットでの出会いみたいに思えるし
仲間が成長して羽ばたくのは社会へ飛び出しているっていうことだろうし
すごく長い時間主人公が外の時間を見続けているのに蛹のままで何も変わらないのが
いつまでも成長できていない自覚があるから長く感じるように思えているみたいなことに感じてくる
こういうすべてが他のものにかけられているような小説めっちゃ好き
「蛹」は衝撃的だった
他の2作品も面白くて田中慎弥さんが色んな賞で評価されるのが良く分かりましたね
読んでよかった