芥川賞受賞作
話は、
自動販売機の補充をしているアルバイトの敦が先輩正社員で今日でトラックの運転手をやめる水城さんと一緒に最後の商品の補充をしながら、自身の妻の知恵子に出会ってから離婚することになってまでについて回顧する話
この本は特別な書き方っていうわけじゃなくて
芥川賞としてはだいぶ読みやすい方だと思うんですけど
水城さんと敦のやりとりで敦がどういう生活を送っているのかの基盤みたいなものを書いていて
その間に差し込まれる知恵子とのやり取りの徐々に崩れていく様子を強調してて切ない
とにかく切ない
離婚のことを題材として書いたものってこっちが悪いんだみたいな気持ちを抱くことが多いですけど
この話はどっちの立場も情が入るからただただ切ないだけが残る
話のなかでは
水城さんという存在もなかなかに印象的で
男勝りで勝ち気なのが表向きだけど
敦の話に耳を傾けっぱなしのところとか
離婚はしたけどまた結婚するところとかに
優しさとか女性らしさみたいなものを感じさせて魅力的ですね
敦が八月に全部を終わらせようとしてるという意味での『八月の路上に捨てる』でもあるけど水城さん視点でも知恵子視点でもみんな何かを八月で終わらせるっていう意味になってるのが素敵
で、なかなか小説で文章単位で好きになることはないんですけど
この小説の、
『券売機で切符を買うとき、十円だけが足りなかった。〜最後に見た彼女の顔だった。』っていう部分がめちゃくちゃ好き
この本の切なさをここの文章に凝縮してる気がして
こういう一際目立つ魅力的な文章はたぶん書き始めに書くのが一般的だと思うんですけど
それを時系列の合うタイミングでしれっと書いてるのが
めっちゃ粋
粋とはこのこと
粋という言葉のすべて
この本はちょっと前の本ですけど
文章の美しさを味わいたい人にとってはめちゃくちゃオススメだなって思います