村田沙耶香さんらしかのつまった一冊
話は、体外受精が一般的で体の交わりがなくなった世界で体外受精なんておかしいという教育方針のもとで育てられた主人公が体の交わりは恋人との間で残したまま円満な結婚生活をしていっているが、実験都市に移住して…という話
村田沙耶香さんの作品は最近短めのを多く読んでいたんですけど長めの作品も良いなって思いましたね
話が大きく前半と後半に分かれていて
話がつまらなくなるところがないし
最後の狂気的な終わり方がとても好き
まず前半は
逆アダムとイブになると育てられた主人公が
恋人は普通に他にいる夫婦で家庭円満
って部分なんですけど
逆アダムとイヴっていう言い回しが村田沙耶香さんを象徴する言い回しで良いなぁって
村田沙耶香さんの作品って発表された時系列順に読んでいくともうこの時は恋人と結婚相手が離れてるのが常識になりつつあるんでね
そんなことでいちいち驚かなくなりますね
そこではあくまでも肉体関係と既存の結婚生活のみが消滅した世界で
この世界が受け入れられるのはわかる気がするんですね
書き方と相まって
ただ後半で
実験都市に移住して
そこでは男女問わず全員がお母さんとなって
全員が子どもを生む機会を与えられて
誰かの子どもではなくてみんなの子どもとして育てられるんですね
言い換えると
ここでは完全に家族という概念が消滅した世界ということになって
それまで夫婦の子どもをつくろうとしてたのに
その意味とか意義とかがどうでもよく感じてしまっていく
という流れになるんですけど
こうなるとさすがに結構抵抗は感じますよね
でもなんで抵抗を感じるのかも言語化できなくなってしまう感覚が少し怖いですね
全体的に今の価値観を流動的なものの一点として捉えていて
それを概念が次々と消滅する形で書いていて
ほんと見事だなって
でね、この作品でも『生命式』のときみたいに
時代遅れの正常は発狂っていう言葉が出てきて
今の価値観に違和感をもってしまう人に寄り添ってくれてる温かさを感じるんですよね
今の時代普通にやってることだって将来からしたらおかしいことも絶対いっぱいあるんだろうなって思いましたね
負のイメージが強すぎる概念が消滅する世界になるか不安だなぁ